平中、開けちゃダメェ! 落差の心理
時は平安。
都で有名なプレイボーイである「平中(へいちゅう)」は、「侍従の君」という女を好きになった。
しかし彼女は彼の気持ちに、まったく答えてくれない。
絶望した平中は、「彼女がトイレに行ったときに出したものを見れば、さすがに嫌いになるだろう」と、恐ろしいことを考える。
その結末は!?
というわけで今夜もメルマガ「セクシー心理学」から。 前編はこちらです。
◆ 箱の中には。
そう決めたら行動は早い平中。
彼は再び、彼女の屋敷に忍び込みます。
彼女のお屋敷も、二度も侵入を許してる時点で、なんら学習能力がない気がします。
大丈夫でしょうか。セキュリティ的に。
さてこの時代、「トイレ」なんてものはありませんでした。
そのため、ある程度身分の高い女性は、部屋の中で小さな箱の中にして、それを家来などに片付けさせるのが一般的でした。
ですので「流される」心配はありません。
さぁ!
条件は(嫌な意味で)そろいました!
彼は廊下に隠れて、家来が持ってきた箱を奪い取ります。
家来はもちろん抵抗し叫びますが、彼はそれを持って逃げ出します。
そして一人になると、深呼吸。
「やった…! ついに見られるぞ!」
たぶんこの瞬間、趣旨がかなり変わっていたような気がします。
「嫌いになる」というより、たぶん彼女が見せたくないものを見ることによる興奮が、彼のことを支配していたのは想像に難くありません。
僕自身、そういう趣味はまったくありませんが、それでもドキドキしてしまうんじゃないか、と思います。
そして彼は、震える手で、その箱を開けました。
すると!
中から、信じられないほどに、いいにおいがただよってきたのです…!
◆ 女の、行動。
確かに、見た目は、「それ」です。
でもとても甘い香りがします。
たとえるなら、高級なできたてデザートのような。
そう。
実はこの侍従の君。
彼の行動を「読んでいた」のです。
うん。
しかし読めるものなのでしょうか、今回の行動を。
「好いてもらえない」⇒「嫌いになりたい」⇒「それを見るしかない」
の思考に、かなり不自然感がある気がするんですけども。
読めたとしたら、たぶん同じ思考の持ち主だと思います。
そして!
「彼は見ようとしている」と気づいた彼女は!
「それ」を、お菓子で再現することにしたのです!!
………。
いやいやいやいやいやいやいや!
ちょっと待て、と!
お前それは絶対に違うだろ、と!
ここで問題です。
あなたのストーカーが、何とあなたの「それ」を見ようとしています!
さてこんなとき、あなたはどうする?
A「見られる前に捨てる」
B「トイレをガマンする」
C「警察に連絡する」
D「お菓子でそれを再現してすり替えておく」
答え…D
ないから!
それだけは、ないから!
いや、この発想、一周して天才だと思います。
とにかくここでは詳細なレシピは省きますが、とにかく「ものすごく形状がそれに似た」ものを、高級食材で再現したのです。
たとえるなら、ゴ○ィバのチョコを溶かして固めて、みたいな。
うん。ゴデ○バに訴えられたらどうしよう。
◆ まさか、まさかの男の行動。
彼は、あらためて目の前のものを見つめました。
形状は、どう見ても、それです。
しかし立ちこめる、すばらしい香り。
さらに光沢もあり、キラキラと輝いています。
ひと言で言えば、「美しい」のです。
彼はたまらずそれを、口にしました。
「その行動もおかしいだろ」と思いますが、それほどまでに、魅力的だったのです。
本当に、高級な焼きたてのお菓子を食べているような幸せな味わいが、舌に広がりました。
「完璧」でした。
そう。
この瞬間、彼がどう考えたのかは分かりません。
「普通の人間なら汚いものですら、ここまで素晴らしい。すなわち彼女は、完全無欠な存在である」
と感じたのか。
もしくは、さすがに作り物であることに気がついた上で、
「自分の行動をここまで察して、なおかつさらにこれだけの手段まで取れる、機知にあふれた女性」
だと知ったのか。
いずれにしても、彼は彼女に、さらに狂わんばかりに惚れてしまいました。
そしてその思いの深さに、ついに死んでしまったのです。
◆ ネガティブなときに、ポジティブを。
これが、平中の恋のすべて。
もし、この話から教訓を得るならば、
「ネガティブなものを期待していたときに、ポジティブな面を見せられると、その落差から相手は感動する」
ということ。
相手が連絡もなく遅くなってきたら、普通は「怒られる…!」と思うもの。
そこであえて、
「良かった…。遅かったから、事故にでもあってたんじゃないかと心配した…」
と言う。
これだけで相手は感激するはず。
またはメールや連絡が長く来ないとき。
相手はやはり怒られると思っているので、そのときにあえて、
「お仕事、大変ですね。無理されないでくださいね」
と言ってみる。
相手は確実に喜ぶはずです。
まぁ、「皮肉」との境目が微妙ですので気をつけて。
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◆ 今回のまとめ。
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○ ネガティブな言葉を想像している相手に、あえて優しい対応を。
○ だからといって、お菓子でそれを手作りする必要はありません。
というわけで、平中の恋の話。
いかがでしたでしょうか。
結果だけ見ると、「それ」が原因で死んだ男。
切なすぎます。
しかしよくよく考えると、この二人、もしうまく行ったら、結構お似合いだったように思えるんです。
結婚生活も幸せそうです。
「今日のメニューは?」
「今日のベースはクッキー生地で、ココアパウダーを使用してみたわ」
「おおっ! いいね。昨日のカリントウは少し安直だったからね!」
うん。
心からすみません。
なんか小学生のころに帰った気持ちです。
いつの時代も恋は危険なのかも、という無難なまとめをしつつ、今夜はお開きにしたいと思います。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
(完)
そしてここからウラ話です。
この物語。
ただ、純粋に考えてみると。
この侍従の君、どうしてわざわざ、お菓子でそれを作ったのでしょうか。
先ほども言ったように、本当にイヤならば、「見せない」などの方法もあったはずです。
またそれこそ「本物を見せた」のなら、彼は彼女のことを嫌い、死ななくて済んだかもしれません。
なぜわざわざ、こんな手間のかかることを。
手間がかかるで言えば、前編で「見たという文字を貼り付けた」という行動もしていますが、
これもやはり、手間がかかっています。
もしかして。
彼女は平中に、嫌われたくなかったのかもしれません。
ある程度彼の気持ちを受け入れていたからこそ、「お菓子でそれを作る」ということで、
「歓待」していたのかもしれません。
すなわち彼女なりの愛だった………と考えるのも、アリかと思います。
………。
こんなことを考える自分自身、もしかして心のどこかですごく都合のいい発想をしているかもしれません。
女性の「いや、違うから」という声が聞こえる気がしつつも、みなさまここまで遊びに来てくださって、本当にありがとうございました。
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