都合のいい男。 「モテロボ」後編

僕は、女性経験がない。
そんな僕は、ある研究所に足を踏み入れる。

そこでは、人間と区別のつかないロボットが作られていた。
研究所員は、「このロボットを相手に会話の練習をすれば、緊張しなくなり、うまく会話をする能力が身につく」と話す。
しかしそれには半年が必要。
でも僕は、すぐにでも好きな女の子と仲良くなって、色々としたい。

そう思った僕は、こんな案を持ち出した。

 

今夜のセクシー心理学は、前回に引き続き、心理学小説をお届けします。

◆ 小説 「モテロボ」 後編

「たとえば、なんですけど」

僕がそう言いかけた瞬間、研究所の女性は、さえぎるように言った。

「ちなみに」

「…は?」

「このロボットをお客様の好きな女の子と同じ姿形にして、そういうコトを…なんて言わないでくださいね」

「え?」

「もちろん、うちのロボットは、超高品質かつ超高性能です。肌質もほぼ完全に再現できていますので、それ自体は可能です」

「…んっ…」

僕は無意識にツバを飲み込む。

「だからといって、やはりロボットと交わるなんて、虚しいだけです。相手が人間だという実感があるからこそ…」

そこまで彼女が言ったところで、僕は慌てて口を挟んだ。

「いや、僕が頼みたいことは、ちょっと違うんだ」

「え?」

僕は自分の計画の全貌を話した。

そして、三日後。

「待った?」

「あ、いえ…」

「じゃ、行こう」

僕には少し前から、気になっている女の子がいた。

名前は、チカコさん。
彼女は今、ある男と並んで歩いている。

そして僕は、少し離れたところから、それを観察している。

普通なら、嫉妬に狂いながら見るシーンだ。

しかし今は、そんな気持ちはまったく生まれない。
それどころか、ワクワクする思いでいっぱいだ。

一緒にいる男は、僕だからだ。

あのあと、僕はそのロボットを、僕とまったく同じ姿にしてもらった。
僕自身、どちらが本物か見分けがつかない。

計画はシンプルだ。

理想的な話し方ができるロボットに、彼女を口説いてもらう。
そして、「いざ!」というときだけ、入れかわる。

これ以上ないほど、分かりやすい作戦だと思う。

小学生のときに、友人とテレビゲームをした。

苦手なステージだけ、得意な友人にクリアしてもらう。
そして僕は、自分の好きなステージだけプレイするのだ。

人は僕のこの生き様を、否定するかもしれない。
しかし、何度挑戦してもクリアできないステージを前にした男の気持ちは、誰にも分からない。

「あと半年鍛えれば、クリアできますよ」と言われても、待てるわけがない。

僕はロボットに、「口説く過程」という苦手なステージをクリアしてもらう。

男によっては、「そこが楽しい」という人間もいるだろう。
しかし僕のようにフラれ続けた人間にとって、そこまで恐怖の時間はない。

断られたら、相手への気持ちも、自分への自信も、すべてが打ち砕かれる。
今までの全人生の否定にも感じられる。

女性には楽しいかもしれないが、僕のような男にとっては、試練にも近い時間
なんだ。

僕がプレイしたい好きなステージは、その先からでいい。

コース外の利用で、料金は少し高くついた。
でも、無理をすれば払えない額じゃない。

このまま行けば普通の女の子と恋愛をするなんて夢のまた夢。
そんな僕にとっては、安いものだと思う。

「楽しかった。ありがとう」

「い、いえ…。こちらこそ、楽しかったです」

「またメールするね」

「はい…」

彼女と「僕」は、その後、何度もデートを重ねた。

会うたびに、彼女の表情も少しずつほぐれていくように見えた。

そして、さらに2週間がたったときのことだ。

「…僕と、つきあってほしい」

ロボットである僕は、ついにそう伝えた。
彼女は少し驚き、そして、うつむく。

遠くから見ている僕にとっても、緊張する瞬間だった。

数秒が、永遠に続くように思える。

そして彼女は、口を開いた。

「……はい……」

自分のことのように嬉しかった。
いや、自分のことなのだけども。

彼女の言葉に、ロボットは言った。

「もし良かったら、二人きりで過ごしたい」

僕がもう、何よりも言って欲しい言葉だ。

彼女は、こう答えた。

「うん…。じゃあ、次のデートで」

天にも昇る気持ちだった。

「次のデートで」というのは、僕にとって都合がいい。

突然、入れ替わるのは大変だからだ。

そして、運命の日。
ロボットはもちろん、電源を切って、家に置いてきた。

ここからが、僕の時間だ。

僕と彼女は、予約したシティホテルの一室に入った。
彼女は顔を赤らめて、目をつむる。

確かに良心の呵責は、ある。

僕は少しだけ、ためらった。

でも…。

彼女も知らなきゃ、幸せなままだろう。

いいとこ取りで、何が悪い。

同日、同時刻。
ある喫茶店の中。

「えー? じゃ、もしかしてチカコの彼氏って、たった今…」

「うん。そうよ」

「げー…。でも、なんでそんなこと…」

「うーん…。条件はいい人だし、会話もうまくて、普段のデートでは、色々と誉めたりしてくれて、すごく気分よくさせてくれるの。女にとっては、とっても幸せな時間よ」

「え、いいじゃない」

「でも、なんか言葉に心がこもってない気がして…。どうしても本能的に、そういうコトだけ、したくないの。それに男には楽しい時間かもしれないけど、女としては色々と面倒だし…」

「あ、それは分かるかも…。でも、そんな都合いいロボット作ってるところ、あるんだねー…」

「うん。顔も姿も、私そっくりにしてくれるの。これから、そういうときだけ専用で使おうかなって思ってる」

「…その彼に悪いと思わない?」

「知らなきゃ、幸せでしょ? いいとこ取りで、何が悪いの?」

(完)

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◆ 今回のまとめ。
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○ 思い思いに結論づけていただければ幸いです。

というわけで、たまにはこんな内容でお届けしてみました。
おつきあいいただき、本当にありがとうございました。


コメント

  1. バラバラ より:

    ほ~・・・
    ショートショートですね。

  2. Halle より:

    あー、男性の考えは予想通りでしたが、まさか女性までやるとは・・・
    自業自得ですが、この二人は幸せになれなさそうですねー(;´ロ`)

  3. たかみ より:

    なんか星新一さんのショートショートみたいで素敵でした!!

    考えさせられる内容でした。
    もういっそのことロボット同士で勝手にさせといて、経過を人間のふたりで見るのもまた風流かもしれないと思いました。

  4. うっちー より:

    こんなオチがあるとは!
    新鮮でした。次回作も期待しちゃいます。

  5. これは・・ より:

    切ない・・

  6. ゆき より:

    普通にショートショートですね♪めちゃ楽しんで読めました☆
    また書いてください(^0^)/

  7. より:

    男女が同じことをやると思いましたが、逆だったんですね。
    オチを作るなら確かにそうなるなぁ、と感心してしまいました。

  8. 女子 より:

    私もそんな使い方したいなぁ…
    そういうときだけ専用ロボット。

    男と女って需要が逆なんですね。

  9. まき より:

    こうくるとは…予想以上でした。笑
    ショートショートとして立派に成り立っていると思うので、何かに応募されたらいいのに。

  10. より:

    すごい☆星新一の新作を読んだ気分です!

  11. アルカード より:

    道もお久しぶりです。
    本当に面白いショートショートでした

    読んでいて、こういうコピーロボットが本当にあったら
    かわりに会社に行ってもらいたいとか考える僕は
    のび太並だと思いました(笑)

  12. 匿名 より:

    渡辺浩弐のSF短編みたいで面白かったです。

    でもこれ男のほうが有利ですね。

    結婚まで至って子供を作ることになったら、
    本物を手に入れるのは男の側だけですし。

    一見すると「偽者の会話」と「偽者の肉体」の交換をして
    平等のようですが、本物の男の会話力は欠陥があるのに対し、
    本物の女の肉体には欠陥があるわけではない。

    結婚まで至らなければ「互いに偽者で満足」するだけですので
    正体に気づかなければ互いがいいとこ取りできて一番平和ですね。

  13. より:

    ある意味仕合せなカップルですか・・・予想を裏切って下さってありがとうございます(笑

  14. MISA より:

    実際にこのロボットができれば、ありそうな光景ですよねー。

    お互いが知らなければ、とても幸せに過ごせそうですね。

  15. みゆ より:

    すごい面白かったです。
    女の子には分かっちゃったんですね、感情こもってないって。
    「僕」も気づきますかね…

  16. 匿名 より:

    >みゆさん
    『僕』は念願の行為に夢中なので気付かないんじゃないですかね?w

  17. 蠍座のネコ より:

    男性の言葉に心がこもってない気がする時は
    よくあるのでドキっとしましたね~
    そういう場合、相手はロボットなんでしょうか???・・・

  18. 匿名 より:

    リアルに短編集出したら買う。

  19. Fraud より:

    何か世にも奇妙な物語を思い出してしまいました…切ない。

  20. 匿名 より:

    てっきり、ロボット会社の女性を
    口説く展開だと思っていましたよ!!

    はずれちゃったです。

  21. 匿名 より:

    こういうの読むとやっぱ頭いいなって思い出す
    普段はミトコンドリアだけど…それすら

  22. mangarisa より:

    すごい…星新一さんの小説を読んでいる気になりました。
    上質のSFショート!また新作を読みたいです。

  23. 空目 より:

    星新一さんの作品を彷彿とさせますね
    こういうSSは結構好きなので、また書いていただけると嬉しいです
    実際SSだけをアップするサイトを立ち上げてもいいと思います。

  24. 匿名 より:

    ラストでバストネタが出てくるとは思いませんでした。おもしろかったです

  25. 匿名 より:

    何か恋愛って。。。

    相手が自分の期待したような言葉や行動をしてくれる事ばかりじゃなくて。

    ある意味不意打ちの不安とか。
    例えば表情の陰りの気配に心が騒ぐとか。。

    人間って不完全なものという前提があるからこそ、恋の気配がするのではないでしょうか・・?

    マニュアル通りのデートをする相手がつまらないように、彼女はそこを本能的に見抜いたのだと思いますし。

    「僕」にはロボット相手のセックスで適当と思われます。

    大変おもしろいお話でした。

    子供が産めないロボット相手に…さて今後の展開。。。

    続編を期待します☆

  26. KAKERU より:

    ある意味で言えば、良い関係かもしれませんね。
    でも、同じ考えだとは……

    今後こういった技術ができたとしたら、こんなことになりそうで怖いです。

  27. カリョウ より:

    小林泰三の短編、「妻への三通の告白」を思い出しました。「肉食屋敷」に収録されているヤツです。
    この「僕」も言ってくれることでしょう。
    「ぼくはじんせいにかった」と。

    真相に気付いた2人は、きっとお互いのロボットを交換して幸せに過ごせると思う。

  28. コンビ二 より:

    ひどいオチですね・・・。 
    でも男の方はいい夢みれたんじゃないかな?

  29. はーぎぃ より:

    星新一さん・・・懐かしい。昔よく読んでいました。
    私的には筒井風味かな、とも・・。
    まあ、オチは「知らぬが仏」なんでしょうね・・。
    でも、実際世の中、知らない方が幸せなこともありますよね。(噂話とか)

  30. まさ より:

    とても面白かった!≧∀≦b

  31. にょろ より:

    >24さん

    同感です。

  32. 匿名 より:

    >男には楽しい時間かもしれないけど、女としては色々と面倒

    私はそうは思わないと、女として否定致します。
    そういうことしたくない男と付き合うわけ、ないし。

  33. みゆ より:

    >>16番さん
    確かに…「僕」は行為だけが目当てらしいですもんね。
    なんか教訓になりました。。。

    またこういうSS書いてください、ゆう先生☆笑

  34. koto より:

    すごく面白かったです!!
    こんな物語を考え付くなんて、ゆう先生は本当にすごいですね☆
    最後ちょっと鳥肌が立ちました。

  35. ちょっとまった! より:

    お互いが幸せ?
    ちょっと待って下さい!

    男の人は生身の女性と「それ」がしたかったんでしょ?
    【男の望むもの=本物の女性とのソレ】

    逆に女の人は男性との「会話」がしたかったんでしょ?
    【女の望むもの=会話のうまいロボットとの会話】

    アレ…?

    生身の男要らなくない?

    違う…?
    お互いの欲しい必要条件を女側は生身の状態でそろえてるけど、
    男はそろえて無くない?
    まぁ、「会話のスキル」だから変な話「ソレ」とは違うよね…。

    うわぁ…なんか男にとってやるせなさみだれうちダワァ…。

  36. 193 より:

    私だったら、自分とそっくりなロボットを、まぁまぁ好きなだけの異性と、sexさせたくないです。

    女性としての~貞節?操?

    上手く言えないのですが、本当に好きじゃない異性に、自分の秘密(?)を知られるのは抵抗があります

    自分じゃなくて、ロボットなのにー・・・何ででしょうね。

  37. nadeko より:

    うーん、深いですね。
    今回のは心理学的テーマとしては
    「男女の恋愛観の違い」?
    「女は本能で見抜く」ってことかしら?

    結局男はカラダ、女はココロってことですかね。

  38. ふにゃ より:

    >コース外の利用で、料金は少し高くついた。

    チカコさんは、そんなに多額の金を払っても面倒だったのでしょうか?
    ”研究所”の呼び込みチラシの内容に惹かれて訪れたならば、いい恋愛をしたいんじゃ無かったのかな・・・

    この風刺の効いたエンディングが故星新一氏のショートショートを彷彿とさせるんですね・・・

  39. Ley より:

    星新一さんを思わせる内容です。
    こーゆー話し嫌いじゃないです。

  40. 佐藤 零 より:

    鉄腕アトムも、手塚治虫の分身です。
    あそび心が有る限り、もっと自分を見つめ直して やさしくなりましょう。

  41. はららん より:

    男は夢中で気付かないというよりも、
    ●貞だから偽物と気付かないというのが・・・
    一番切ない。

    そのロボットの女は子供作れないんですかね?
    作れるなら、そっちの需要が高まりそう

  42. さえこ より:

    ホント、星新一さんみたいですね!
    面白かったです♪

  43. 匿名 より:

    自分なりに考えてみました。

    これは『この小説の中の』『男』と『女』の恋愛に関する『手段』と『目的』の違いが微妙にすれ違ってる、というところに面白さがあるんだなーと。

    だから見る人によって意見がまちまちになる。

    ゆうき先生はその辺も計算して、「思い思いに結論づけていただければ幸いです」といったのではないかなー?と。

    とても面白かったです^^

  44. 匿名 より:

    他の方もおっしゃっていますが、星新一さんの小説のようで面白かったです!