やりすぎ勧善懲悪マンガ「アクメツ」

あなたは、デスノートというマンガをご存じでしょうか。

名前を書いただけで人を殺せる「デスノート」を手に入れた少年の話です。
おそらくこれを見ている大半の方が「知ってる」というかもしれません。

では、それよりもずっとハードでバイオレンスなマンガをご存じでしょうか。

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それこそが今夜ご紹介する、「アクメツ」というマンガです。

アクメツ。

語源は「悪を滅する」から「アクメツ」。

ネーミングセンスはアレですが、ひと言で言えば、正義のヒーローが、悪を倒していく、というマンガです。

ここまで書くと、非常にありがちなマンガに感じるかもしれません。

しかし彼が倒す対象は、「国の財源を食い物にする政治家や官僚」。
・天下り
・道路利権でウハウハ
・国債を発行しまくって国を借金漬けに
・年金を懐に入れる
・ウィルス入りの血液製剤を認可

など、いかにもニュースでよく出てくる、ハデハデしさのない、いくらでも現実にいるけど多くの人があまり意識しない「悪」こそが、彼の攻撃対象です。

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「借金700兆円」。

よくニュースで聞きつつも、われわれがほぼ意図的に忘れている事実を、
まずは突きつけます。そして。

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こちらが記念すべき、第一回目の被害者 悪。

日本経済を好き勝手にかき回し、ありあまる金を懐に入れる。

彼は自分を一等日本人と称し、周囲を下等日本人と称します。

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「嘗めろっ!」

非常に分かりやすくイヤなおじいさまです。

デスノートの「悪」が、子供にも分かりやすい殺人犯や強盗犯なのにたいして、
このマンガではとどのつまり、
国の金を懐に入れる」「弱者から搾取する」という人間こそが、まさに最大の悪として描かれます。

そして満を持して登場するのが、我らがヒーロー、アクメツ。

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顔を隠す気がほとんどありません。

まったく変装してないのに誰も正体に気がつかない、セーラー○ーンなどに近いものがあります。

実際、作中では周囲の友人も、同じくほとんど気がつきません。

話を戻します。
登場した彼は、相手を断罪する前に、その悪事を説明しします。

しかし悪事の性質上、「公的補助」とか「国債」とか「厚生年金」などの単語による説明が必要になります。

一般的な推理マンガやデスノートなどのように、
「お前、あいつを殺しただろう」などの分かりやすさはありません。

そのため、彼は必死に論理を展開します。

「お前は公的補助を受けた」

⇒「それは結局は税金だ」

⇒「その額、3億円」

⇒「俺の知り合いのおじさんは、1千万の補助が受け取れず、事業が失敗して自殺した」

⇒「3億÷1千万=30である」

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「てことは30人殺したということになるよな、死が妥当じゃん」

なんてムチャな論理。

何より必死に自分を納得させているようにも思えます。

というか、事業が失敗したからといって自殺するかどうかはその人の判断ですし、1千万足りなくて失敗した人に今回1千万与えたからと言って、その人が今後また同じように失敗して自殺しない保証はないのでは。

そんなことを当然思いますが、とにかく彼は独特の論理で断罪し、そして相手の反論をまったく聞きません。

議論をする気があるのかないのか。

そして相手は、最後の反論を試みます。

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「わし程度で悪人といったらどうなる!?
何人殺してもきりがないぞぉぉっ!!!」

当然です。当然の反論です。

しかし!

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問答無用で瞬殺します。
返答できなくてキレたようにも思えます。

そして、彼はこう言うのです。

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皆殺し宣言です。

「全部殺す」と言い切っているわけです。

今答えても遅いように思えますが、とにかく言いきりが見事です。

多少たとえがアレですが、一匹見たら30匹なイニシャルGな生き物(あまりにキライなので明言を避けます)を、全滅させようとするのにも似ています。

そして、この直後。

彼はこの建物から出るときに、自らしかけた爆弾で頭を爆発させ、死んでしまいます。自殺です。

しかし。

彼は死んだにも関わらず何度も出現し、さまざまな悪を断罪します。

なぜなら!

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彼には、「死んでも死なない能力」と「同時に別の場所に存在できる能力」があるからだったのです!

………。

こういう、明らかに人間離れしたレベルのことを「能力」という言葉で片付けるのは、最近のマンガの悪いクセだと思います。

ちなみに自分の能力は、「グラビアアイドルのバストが本物かどうか見分ける」(能力名…パイウェイ・スター)というものですが、やはり能力というからにはこのレベルのものが妥当ではないでしょうか。これはこれで最悪ですか。

ところでこの主人公の能力、実は単に「自分のクローン人間を作り出す技術があった」というもの。

タネを知ってしまうと「なぁんだ」ではありますが、それでも全員でテロをされたらたまったものではありません。

しかし彼は、とにかく自分なりに考える「悪」=「税金を自分のものにしたり、弱者からお金を搾取したり、私腹を肥やすために民衆を犠牲にするもの」を、片っ端から殺人、いえ断罪していきます。

最終的には、国会議員は全員死にます。

かのデスノートもここまでムチャクチャはやりません。

最初のうちは納得できますが、見ているうちに「やりすぎでは」と思えてきます。

またこのクローンは「一人の記憶を全員が共有できる」という設定ですので、それぞれが様々な分野のプロフェッショナルになることで、以降に生まれる全員が「あらゆる分野の天才」になっています。まさに無敵軍団です。

それだけそろうなら、それぞれが普通に成功して、特に官僚や政治家になって、よりいい政治を行ったりすれば、よっぽど庶民にとって幸せが訪れる気がするんですが。悪い政治家が死んでも、一般人は一円もトクになりませんし。

しかしそれを言わないのがお約束でしょうか。すみません。

さぁ、ここでこのマンガにも、ヒロインが登場します。

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ヒロイン、長澤詩菜。
本編ではほとんど出てこないのですが、一応重要な役どころです。

主人公のことを好きな彼女は、その行動を知り、「そんなことはやめて」と言います。

理由は「あなたが死ぬのを見たくないから」。

とりあえず、殺人に関しては全肯定のようです。

しかし彼はヒロインに言います。

「俺はこの力で、悪を滅ぼすまで闘う」。

さぁ。

そしてこの物語の、ある意味最大の見せ場。

アクメツは、彼女に向かって問いかけます。
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「家族を、隣人を苦しめる悪を滅ぼす力を持ったら、悪を滅ぼしますか?」

難しい質問です。
一種、哲学的ですらあります。

さぁ、これにたいして、泣いていたヒロインはどう答えるのでしょうか?
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「滅ぼすわ」

 

………。

断言かよ!

もう、即答です。

「滅ぼしますか?」の直後のコマで「滅ぼすわ」でした。

まさに大賛成です。

なんて言うか、ヒロインだったら、もう少しためらってほしかった。

「それでも私は滅ぼさない」
「でも、私にはできない…」

とか、「復讐は何も生まないわ」的な、人道的な反対意見がほしかった。

デスノートでたとえるなら、主人公の妹である粧裕が、

ダメよお兄ちゃん、もっとバンバン、デスノートで殺さないと

と言うのにも似ています。

とにかくヒロインからしてコレですから、彼を止められる人などいません。

実際にデスノートでは「L」というライバルが登場し、主人公の理想というより、単なる二人の闘いにシフトしていった感がありますが、このマンガではそういうライバルは登場しません。

ライバルっぽい熱血警官や、ニヒルな刑事、さらに「悪を前にすると鼻血が出る」という、役に立つのか立たないのかイマイチ分からない特殊能力を持つ検事の女性も登場しますが、誰一人として彼に勝つことはできません。

それどころかラスト近くでは彼と慣れ合ってる始末です。

ただそれよりメインであるテーマが、

『実際に、こういう「社会悪」をすべて排除していったら、どうなるのか。
本当に社会は良くなるのか?』

というもの。

「殺人犯などの犯罪者を殺せば理想的な世界が」と考えるデスノートに比べて、もう少し現実的な問いかけを我々に投げかけるドラマではあります。

主張と行動は納得できない部分もありますが、それでも読んでいるとグイグイと引き込まれます。
ある意味「これぞマンガ」という感じです。

途中、「今度は道路族」「今度は厚生労働省」「今度は年金」と片っ端から殺していくときには微妙に中だるむ人もいるかもしれませんが、それでも最後(全18巻)まで読むと、達成感はあります。
またラストも、確かに納得できるもので、読むとホロリとします。

ただ描写は結構ハード。
相手の指を飛ばしたり手を斬ったりは当たり前ですので、そういうのが大丈夫な方のみどうぞ。

というわけで、ハードバイオレンス版、デスノート。

興味ある方はぜひ。

アクメツ 1 (1)

アクメツ 1 (1)

posted with amazlet on 07.09.13

田畑 由秋 余湖 裕輝
秋田書店 (2003/02/06)

おすすめ度の平均: 4.5

5 今はそうでも無いと思うけど
4 日本の政治の悪を滅せよ!
5 悪即殺!この快感!!

ちなみに自分は、こういう「悪を倒すヒーローモノ」を読むと、必ずと言っていいほど、「自分も殺されないか」と心配になります。
被害妄想です。

寝っ転がってマンガ読んだら殺されないか。
駆け込み乗車したら殺されないか。
ご飯をポロポロこぼしたら殺されないか。

自分でも自分のレベルの低さに切なさを覚えます。

こんな僕も滅ぼされるんでしょうか?
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………。

 

これはこれでゾクゾクしました。