今の自分は、本当に昔望んだ自分なんだろうか。「後編」
あなたは、「新宿の妹」というものをご存じでしょうか。
そのドアを開けようとしたとき、男が聞いた言葉とは!?
というわけで、こんばんは。ゆうきゆうです。
昨夜の更新に多くのレス、ありがとうございました。
せっかくですので、続きの掲載を。
中途半端もアレですので、一連の流れだけ完結させたいと思います。
昨夜の前編の続きとなります。
「あの…」
そう言いながら、ドアを開けようとしたときのことだ。
「先生、本当にこんなんで、来るんですか?」
女性の声だ。
それも、二人で会話をしているらしい。
「来るわよ!」
もう一人の女性の、たしなめるような声が、響く。
「だってホラ、今ってアキバ系が大流行じゃない!? 妹って書いておけば、脊髄反射的につられた男たちがやってくるわよ!」
「でも、来るのって、とにかく妹求めてるような男たちですよね…?」
「でもね。妹を求める男性ってことは、それだけ自分に逆らわない女性を求めてるってコト。
それは、日常でストレスを抱えていて、色々思い通りにいかないことによる反動…とも考えられない?」
「………ま、まぁ…」
「だったらすなわち、『潜在的に、うつになりそうな男』にも通じない?」
「なんか、拡大解釈しすぎてる気がしますけど…。
まぁ、うまく行けばいいんですけどね…。とにかく患者さんが減りすぎてる現状に歯止めを…」
「あああああああっ!」
「え?」
その瞬間、二人は僕に気がついたようだった。
「あ、あの…」
「………」
「すみません。かえりま…」
そう言いかけた瞬間、『先生』と言われた女性は、こう言った。
「は…」
「え?」
「はじめまして! お兄ちゃん」
今さら。
というか、「お兄ちゃん」なのに「はじめまして」。
この言葉の矛盾について、彼女は何も感じないのだろうか。
声の方向を見ると、美しい女性が、白衣に身を包んで立っていた。
知性的で、でも子供のようなあどけない瞳。
髪は黒く、美しい。年は20代にも見えるし、30代にも見える。
しかし彼女はなぜか、頭に小学生の女子がつけるようなリボンをつけていた。
それだけが、激しい違和感を発している。
「お、お兄ちゃん」
声が少しうわずっているように聞こえる。
おそらく、こんな言い方をしたのは、はじめてなんだろう。
「きょ、今日は、どうしたの?」
いや、それはこっちのセリフだ、と思った。
「な、何なんですか? ここは…?」
その瞬間、側にいたもう一人の女性が、言った。
「ここはね、疲れたお兄ちゃんを、安らがせてあげる場所なんです」
彼女はナースの恰好をしている。
立ち振る舞いからして、本当にナースなんだろう。
彼女は「先生」よりも練習しているのか、発声がより自然に思える。
しかしナースなのに「お兄ちゃん」を連発しているのが、ありえないくらいに怪しい。
僕は言葉の内容に気がつくのに時間がかかったが、慌てて聞き返した。
「疲れたお兄ちゃん…って、僕のこと?」
「うん。顔からして分かるわ」
先生と呼ばれる女性が、すぐに答えた。
「………」
「疲れてるよね? 仕事にも恋愛にも、何ら希望を見いだせないでしょ?」
確かに。
あまりにハッキリ言われるのが少しイラッと来るが、事実ではある。
「私はね、そんなお兄ちゃんに、幸せを…」
「………」
そこで、彼女の言葉が止まった。
「………」
「………」
「お兄ちゃんって話すの、もう限界だから、やめていい?」
だったら最初からしないで欲しかった。
僕は心からそう思った。
ナースが言う。
「先生、普通に話すんですか?」
「えぇ。もう釣れたから、いいでしょ?」
釣れた、て。
「い、いや僕、もう、帰りま…」
僕はそう言いながら、ドアに向かって回れ右をする。
そして、ノブに手を掛けた瞬間、こんな声が響いた。
「本当に、いいの?」
「え?」
「お兄ちゃんとか妹とかなんて、キッカケに過ぎない。
大切なのは、あなたが私のこの診療室に訪れたという事実。
そしてそのあなたが、ストレスを抱えているということ」
「………!」
彼女の言葉に、僕の動きが止まる。
確かに僕は、ストレスを抱えていた。
それは間違ってない。
「で、でも…!」
そう言おうとした瞬間、彼女の質問が、僕の心に飛び込んできた。
「あなたが朝に起きるのは、何のため?」
理由。
僕が起きる、理由。
仕事は退屈で、疲れるだけだ。
恋人もいない。趣味もない。
起きることほど、苦痛なことはない。
いったい僕は、何のために、起きるんだろう。
何を思い描いて、夜に眠るんだろう。
「あなたのやりたいことは、何なの?」
たたみかけられる質問に、僕は言葉を失う。
僕の、やりたいこと。
繰り返す日々の中で、いつのまにか忘れてしまった気持ち。
どこかに失ってしまった夢。
「………」
僕はそれに、明確な答えを出すことができない。
すると、彼女は言った。
「でも、そんな毎日を、私が変えてあげられる、と言ったら?」
「……!!」
彼女の言葉は真剣で、さっきまでの「お兄ちゃん」と言っていたときの不安さは、カケラもなかった。
その瞳には、何とも言えない真実味がある。
「ただ、私の話を、聞きなさい。
そうすれば、あなたの明日を、大きく変えてあげるわ」
「………」
僕は思わずノブにかけた指を下ろし、彼女の方に向き直った。
「………き、聞かせてください」
この決断は、正しかったのだろうか。
迷いに満ちた僕の眼差しを見ると、彼女は静かに微笑みながら、口を開いた。
「じゃあ、そこに座って」
これから、何が始まるのか。
彼女の言葉によって、僕はいったい、どう変わるのか。
不安だ。恐い。
でも僕の心の中に、少しだけワクワクする気持ちが生まれている。
それだけは、確かだった。
そう。
彼女の言葉を待つまでもなく、僕は予感した。
この決断は、決して間違っていなかった、と。
「…あ、でも、その前に」
「…え?」
「まずはリボン、取っていい?」
早く、取ってください。
僕は自分の決断が正しいのかどうか、微妙に迷い始めた。
これは、その夜に、僕と「先生」のあいだに起こった物語である。
………という感じで、物語が始まっていきます。
なんだか、まったく興味のない方には微妙な話で本当に申し訳ありません。
書き上げてしまったので、まぁ、どうせなら…という感じで。
明日からまた通常更新に戻ります。
それはそれとして、最近読者さんにお教えいただいた、「ネコを捕まえるゲーム」。
ヒマつぶしに。
ネコを囲ったら勝ちです。2回に1回しか勝てません。
たまに勝ちが決定すると、嬉しくてこんなことをします。
自分の中のサディスティックな一面をちょっぴり感じる瞬間です。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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