今の自分は、本当に昔望んだ自分なんだろうか。「前編」

常に考える。
今の自分は、本当に昔望んだ自分なんだろうか。

夜は12時に仕事を終え、終電に乗って、1時に帰る。就寝するのは2時ころだ。
そして朝は5時に起きて、6時に家を出る。
もうこれが普通すぎて、何も思わなくなった。

僕は、何をしているんだろう。
本当にそんなことをずっと考えている。

 

もちろん恋愛なんて、ここ数年ずっとしていない。
休みの日なんて、ただ家で寝ているだけで、趣味といえる趣味もない。
パソコンを立ち上げ、ネットでセクシーな画像を収集することが唯一の趣味だが、周囲に言ったところ引かれたので、二度と言わないようにしている。

 

孔子は言った。

吾れ十有五にして学に志ざす。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳従う。七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。」

僕は昔から、孔子のこの言葉が好きだった。
あまりに学びすぎて、自分の友達ではないかと思うくらいだった。
心の中で「孔子くん」とか、「孔ちゃん」と呼んでいた。

孔子くんによると、人は15歳で学問に志し、30歳にして、立たなければいけないんだそうだ。

15歳のとき、僕は一応は一生懸命勉強をしたといえば、したかもしれない。
成績も決して悪い方ではなかった。

しかし、そのときの予想と今の自分は、大きく違う。
確実に、そう思う。

三十にして立つ。

僕は、ちゃんと立つのか。
いや、もとい、立っているのか。
立つというのは、自分の基本を確立して、自分とは何か、自分の今後はどうなるのかを明確に打ち出すことを言うらしい。
言ってみれば、大人としてのスタートラインに立つ、ということだ。

自分はスタートラインに立っているのだろうか。
どう考えても、そうは思えない。

昔、マラソンに参加したことがあった。
有名選手も走る、かなり大きな大会だ。

たくさんの群衆にもまれ、スタートラインのはるか後方から走った。
どこにスタートラインがあるのかも分からない。
いつスタートの音がなったのかも分からない。

ただ、周りの人間が走ったから、僕もマネをして走っただけだった。
周囲には、遊びで参加しているとしか思えない、アニメキャラの仮装やコスプレをしている参加者もいた。

こいつらと一緒なのか。そう思うと切なくなった。

そして気がつくと、棄権していた。

今の自分は、ついそのときのことばかり思い出す。

仕事をしても、達成感がない。
ミスも多い。そのたびに怒られる。
毎日の生活に希望が持てない。

今この瞬間に日本が滅亡しても、何も悲しくない自分がいる。

僕が、その看板を目にしたのは、今考えると、必然だったのかもしれない。

そのときの僕は、珍しく11時に会社を出ることができ、本当に少しだけ時間が空いていた。

行きつけの店なんて気の利いたものはない。
僕は少しだけ、新宿の街を歩いてみた。

歌舞伎町。最近は以前に比べて、客引きもグンと減った。
歩いていても、声をかけてくる人間はほとんどいない。

そのときだ。

こんな立て看板が目に入った。

「新宿の妹は、こちら」

新宿の母、または新宿の父などなら、聞いたことがあった。
それなのに、新宿の妹。

というか、「○○の妹」という名称自体、はじめて聞いた。
百歩譲って「姉」なら、まだ分かる。しかし、妹。さらに、新宿。

さらにその立て看板は、風俗店やテレクラの立て看板の中に混じっておいてあるのだ。
どう考えても即、撤去されても文句は言えないだろう。

何だろう。これは。
自分自身、気になってしかたない。
僕は気がつくと、その看板の示す方向に進んでいた。

そこには、古いビルがあった。

ビルの入り口には、再び、同じ看板があった。

「新宿の妹、このビル2階」

そして端っこに、小さくこう書いてあった。

「アヤしくないよ!」

こう書いてあるのが、余計、アヤしい。

心からそう思う。しかしそのときの僕に、そんなことを考える余裕はなかった。
飛んで火に入る夏の虫というのだろうか。
それが火だと分かっていても、好奇心という本能は消せない。

気がつくと、僕はビルの中に入り、エレベーターのボタンを押していた。

「新宿の妹、あとはこのドアを開けるだけ!」

ドアの前には、やはりこう看板があった。

端っこには、小さくこう書いてあった。

「ぜんぜんアヤしくないよ! 大丈夫だよ!」

書いた本人が一番アヤしいと思ってるんじゃないか。
そんな気持ちを濃厚に感じた。

しかしもう、ここまで来たら、僕の気持ちを止めることはできない。

僕はそのまま、ドアに手を掛けていた。

「あの…」

その瞬間、僕は信じられない声を聞いた。

 


 

 

そんなわけで、ゆうきゆうです。

これ、現在僕がかいてる本の冒頭です。

自分の話ではないのでご安心(?)ください。

あまりにこの原稿が進まないので、本日の更新も兼ねて書き進めさせていただきました。
読んでくださった方、すみません。心から感謝です。

続きに興味がある奇特な方がいましたらお書きくださいませ。

そんなこんなで、いつも更新見に来てくださって本当にありがとうございます。

たまにはこんな更新も、ということで。
ではではっ!おやすみなさい。