トビー・テンプルの口説き方。

あなたは、シドニィ・シェルダンという作家をご存じでしょうか。

「ゲームの達人」「明日があるなら」などの本を書いた、アメリカの小説家です。
もう亡くなってしまった方なのですが、個人的に大好きで、ほぼすべての小説を読みました。

その中で、

「私は別人(A Stranger in the Mirror)」

という本があるんです。

ひと言で言うと、トビー・テンプルというコメディアンが、アメリカの芸能界で成り上がっていく、という話です。
その彼の口説き方が、またスゴいのです。
 
こんばんは。ゆうきゆうです。

本題に入る前に、こんな話を。

かなり昔のことなんですけど、聞いていただけますか。

診察中のできごとなんですが。
ある方の過去の病歴についてお聞きしていたところ。

その方が、バスケの練習中に骨折してしまったことがあると話されました。

ですので、そのままカルテに記載しました。
そして診察が終わってから、少しだけ休憩していましたところ。

受付のお姉さんが、

「先生、カルテで少し書き間違いがあるようなんですけど…」と。

何だろう、と思って、カルテをざっと見てみましたが、特に間違いらしきところは発見できませんでした。

「え、どこですか?」

するとお姉さんは、少し顔を赤らめて言いました。

「た、たぶんあの、練習中のくだりかなぁ、と」

え?

と思って、見てみました。

「バスケの練習中に骨折」が、

「バストの練習中に骨折」と書いてありました。

あぁ、これはもう、ダメだ、と。

これ書いた人、もう人間としてダメだ、と。

すっごく客観的な目で判断できた自分がいます。
もう第三者的な視点で。

ざっと見て何の違和感も抱かなかったのもさらにダメだと思います。

ていうか、バストの練習中に骨折。

バストの練習だけでも意味分からないのに、さらにそこで骨折。
どんだけハードな練習だったんだ、と。

ものすごく濃厚なイメージトレーニングだったんでしょうか。
もしくは石か何かで練習して、「これを揉めるようになったら本物は完璧!」みたいなトレーニングだったんでしょうか。
そりゃ骨折するわ。

そこまで思いつつ、受付の方と見つめ合いました。

「………」

「………」

「これをバスケに直したら、厳密にはカルテ改ざんになるのかな」

「たぶんこのレベルなら、許されると思います」

「ですよね」

「ていうか直さない方が、色々とマズいと思います」

心から同感でした。

しかしカルテを直す場合、やはり「改ざんをした」となってしまうので、修正液を使ったり、真っ黒に塗りつぶしたりすることはできません。

そのため、

「バス(「ト」に二重線)ケの練習中に骨折」

という、後々まで残る悲惨な状況に。泣けました。

それ以降、仕事中は間違ってもバストとは書かないように気をつけています。
みなさんがたぶん幼稚園児くらいのときに学んだことを今さらたどってます。

それこそ患者さんが本当に「バストの悩みが」と言ったときですら「バスケの悩みが」と書くくらいの勢いです。

どちらに転んでも微妙な人生を歩みつつ、今夜もセクシー心理学の世界をお届けします。

◆ トビー・テンプルの口説き方。

さて、冒頭に出てきた、「私は別人」。
これは、トビー・テンプルというコメディアンが、アメリカの芸能界で成り上がっていく、という話です。

で、このトビー。
ものすごいプレイボーイです。

まぁ、シドニィ・シェルダンの小説は、9割方プレイボーイが出てくるんですけども。

別の作品に出てくるプレイボーイは、
「浮気をしたら女性に引っかかれ、それが本命にバレるのを避けるために、ネコを買ってきて、それに引っかかれたことにした」
という行動を取っています。

いや、普通にバレるだろ、それ、と思うんですが、作中ではまったくバレてませんでした。

そんなステキなプレイボーイが満載のシドニィ・シェルダン小説です。

それほどまでにアメリカではプレイボーイがあふれかえっているのか、もしくはシェルダン先生にどんな願望があったのか、それは分かりません。

いずれにしても、トビーはスターなので、芸能界で、さまざまな女性と関係します。

その中で、彼の「口説き方」を説明した部分を引用します。

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トビーの口説き方はシンプルだ。
女性に向かって、たった一球だけ、ど真ん中ストライクを投げてやる。

相手がホームランを打ったらOK。
打ち損じたら、さようなら。
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この本は学生のときに読みましたが、いまだに記憶に残ってます。

いや、別にいいとか悪いとかでなくて、それだけインパクトがあったのです。

これ、意外に恋愛の奥義なのではないでしょうか。

いや、もちろん女性にとっては、「ハァ!? 何それ!?」みたいに思えると思います。

どんだけ大上段なんだと。
ていうかそんなに簡単に「さようなら」と言えるなら、最初から口説くな、と。

しかし考え方によっては、納得できる部分もあるのではないでしょうか。

実際、女性からしてみれば、
「明らかに相手のストライクボールに気づいた上で見逃し三振している」
にも関わらず、それでもしつこくボールを投げてくる男性だっているはず。

そう言う意味では、トビーみたいにあきらめがいい方が助かると思いませんでしょうか。

また、好きな相手がいて、告白できず悩む男性に、

「当たって砕けろ!」

とアドバイスをすることがありますね。

さらにフラれたあと、

「女なんて、星の数ほどいるさ」

と言い聞かせることがあります。

この2つのアドバイスを合わせたものが、

「女性に向かって、たった一球だけ、ど真ん中ストライクを投げてやる。
相手がホームランを打ったらOK。打ち損じたら、さようなら。」

なのではないでしょうか。

結局、分かりやすくまとめると、そういうことだと思います。

とにかくウジウジと、告白なのか何なのか分からない、あいまいなアプローチをダラダラと繰り返すなら、もうとにかく分かりやすく、

「誰が見ても、ストライクとしか思えない球を投げる」。

男はそれが大事です。

そして女性が打ってくれなかったら、しょうがない。
しつこくダラダラつきまとうより、とにかく「あきらめよう! まだ次がある!」と切り替えること。

こういうセリフと考えると、結構うなずけるものもあるのではないでしょうか。

◆ 打ちとるのではなく。

さらにこのセリフの重要な部分は、もう一つ。

「打ち取ってやろう」ではなく「打ってもらおう」と考えている点ではないでしょうか。

実際に恋愛の場合、とにかく相手を「説得しよう!」「やりこめよう!」と思う人も多いかもしれません。

「いかに自分がスゴイか説明する」
「相手の良心を刺激して、自分と恋愛するように仕向ける」
「相手が思いも付かなかった口説き文句で、相手のハートを突き刺す」

などなど。

これはすべて、「とにかく打てないタマで、ストライクを目指す」「打者を打ち取る」という発想をしている可能性が大です。

しかし恋愛、相手をやりこめてもしかたありません。
相手はイヤな気分になって、去ってしまいます。

大切なのは、それこそ接待スポーツなどのように、「打たせてあげる」こと。

たとえば、バットを持って、打席になってみた場合を想像してください。

どんなに打つ気がなくても、「すんごくふわっと、ど真ん中のボールが飛んできた」ら、ついつい無意識に打ちたくなってしまいませんでしょうか。

そう思わせることこそが、最高の「口説き」なのかもしれません。

相手を「追い詰めろ!」「打ち取れ!」ではなく、とにかくいい気分にさせて、ふんわりと「打ちたい気持ちにさせる」こと。

これこそが、恋愛に限らず、仕事や人間関係など、すべての「口説き」「お願い」の奥義なのかもしれません。

それでダメだったら、もうとにかく「相手が恐ろしくヘタだった」と考えて、自分がキズつかないようにする。

そう思うことが、一番だと思います。

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◆ 今回のまとめ。
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○ まずは、ど真ん中ストライクを投げよう。

○ それでダメなら、もうしょうがありません。

というわけで、いかがでしたでしょうか。

大切なのは「ストライクを投げること」。

やりたい仕事があったけど、やれなかった…。
好きな人がいたけど、うまく行かなかった…。

そんなあなたに、もう一度、聞きましょう。

あなたは、ちゃんと「この仕事をさせてほしい」と言いましたか?

「好きだ」と言いましたか?

「つきあってほしい」と言いましたか?

それこそが、何よりも大切なんですよ。

(完)

ちなみに自分の場合、ど真ん中ストライクを投げたはずなのに、なぜかデッドボールで強制退場させられます。切なすぎます。

世界一切なさを感じつつも、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

ちなみにプレイボーイであるトビーは、最終的にある女性に気持ち惹かれ、
「彼女だけは他の女と違う」
と結婚します。

その女性は、清純なふりをした悪女。

彼女が使ったのは、
「ホームランを打ちつつも、ホームランボールが突風でスタンドに入らない」
というような手法でした。

このあたりの詳細が気になる方は、まぁ、小説をお読み下さい。

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