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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。
               ~脅迫メールに怯える女医。1
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今日はとっても有意義な一日でした。
マヤ先生のところに、ネットとしては通過儀礼とも言うべき、「チェーンメール」が来たのです。

マヤ「ねえ、このメール見てよ!」

泣きそうな顔で訴えるマヤ先生。
パソコン画面に表示されるチェーンメールは、まさに筆舌に尽くしがたい完成度でした。


「先月の8日に、青森県で殺人事件があったのです。
私の友人の女性が、大勢の男たちに殺されたのだ。」


「です」と「だ」の入り混じる、知性漂う文章。


「犯人は、まだ見つかっていません。だから俺はこのメールを書くことにしました。」


「私は」と「俺は」を使い分ける礼儀正しさ。


「俺は犯人を許さない。誰が何と言おうと許さない。」



誰も何も言ってないし。



ただでさえ夜勤続きで疲れている僕の
頭の容量を完全にオーバー
していました。メールは続きます。



「このメールを受け取ったら、24時間以内に10人に回して下さい。回さないと、あなたが犯人だと言うことなので、あなたを殺します」





なんて短絡思考。
「と言うことなので」というセリフに、哀愁を感じました。

でも、どうやって調べるというんでしょう。そんな僕の疑問に、そのチェーンメールは、
見事なほど明快に答えていてくれました。



「あなたがメールを回さなかったということは、知り合いの探偵事務所の、
最新のパソコーンで調べられます」








調べられません。
絶対に、調べられません。

その上、「パソコーン」じゃ無理です。



「そして、貴方の携帯番号・住所などなども調べられます。」






「などなど」って、何だ。お前絶対に
考えるの面倒になったろ。


「もしタイムリミットの2時間前になってもメールを回さない場合、あなたの携帯を非通知で2回鳴らします。」


ほほう。

「1時間前には、1回鳴らします。」



ふむふむ。っていうか、お前の家は電話屋か。
10人にメールを、3回やったら1000人だ。朝から番まで電話三昧か。
お前は絶対に、小学校の頃に、夏休みの宿題を3日で終えると宣言して、最後の日に
泣きながらおじいちゃんに
手伝ってもらうタイプだろ。



「このメールを馬鹿馬鹿しいと言い、回さなかった人が、すでに5人殺されています。
一人は千葉、一人は福岡、一人は北海道」










全国津々浦々なところが、かえって信憑性をなくしていました。



「一人は沖縄、一人は秋葉原」









どうして急にローカルになる。



「以上です。それでは、頑張って。」



なぜ頑張るんだ。


お前は
犯人を探してる

んじゃなかったのか。



様々に突っ込みながら、僕はパソコンから目を離しました。
かつて、これほどまでに見事なチェーンメールが、あったでしょうか。

僕は、あまりのバカらしさに、同意を求めるために、マヤ先生の方に向き直りました。


するとマヤ先生は、ブルブルと震えながら言いました。




マヤ「どうしよう…」








マジに心配してるよ。




マヤ「実はね、さっき非通知で電話が鳴ったの」




そりゃ、鳴ることだってあるだろ。



そう思いましたが、僕は一応聞き返しました。
ユウ「出たんですか?」

マヤ「ううん、怖いから出なかった」

僕は、少しだけ不安がよぎりました。
ユウ「何回鳴りました?」

すると、マヤ先生は言いました。



マヤ「14回」




















出てやれよ。



僕は、頭がクラクラになりながらも、必死に言いました。

ユウ「それ、絶対にそれとは違う用件ですよ」
するとマヤ先生は、大声で言いました。



マヤ「どうしてそんなことを言い切れるのよ!?」



っていうか、
どうしてこんなことを説明しなければ
いけないんだ。

僕はそう思いましたが、内気なために言えませんでした。

ユウ「だってそもそも、回数が違うじゃないですか!」

するとマヤ先生は、いきりたってこう言いました。



マヤ「何が?」
















メール読んでください。



マヤ「本当に殺されちゃったらどうするのよ!? 責任取れるの!?」

なぜ、僕が責任を取らなきゃいけないんでしょうか。

僕は、残った気力でこう言いました。

ユウ「じゃあ、10人にメール送るんですか?」
するとマヤ先生は即答しました。

マヤ「いやよ、そんなの。めんどくさい





………






あなたの命だと思います。


マヤ「それにそんなコトしたら、何だか脅迫に負けちゃうみたいじゃない」









すでに負けてます。





マヤ先生はしばらく悩んだあとに、こう言いました。

マヤ「あ、いいコト思いついた!














やな予感。





マヤ「警察に相談しにいきましょう!」










そっちの方が、よっぽど面倒です。









マヤ「じゃ、お願いね」














……













………………













俺?













さあ、なぜかチェーンメールごときの相談で、
本人でもないのに警察に相談に行かなければならなくなったユウの運命は!?

次号に続きます!!!


モーニング女医。~kyohaku2

(昨日までのあらすじ)
マヤが受けたチェーンメール。その相談のために、なぜか警察署まで行かねばならなくなったユウ。
果たして、ユウに明日はあるのか!?



「何か、御用ですか?」



僕が刑事課に入ると、人相の悪い刑事さんたちがゴロゴロいました。






ああ。僕は一生、警察の厄介にはならないと誓ったのに。

僕は必死に自分の気持ちを落ち着かせます。







さっき、マヤ先生が電話していたハズだ。
話は聞いているだろう。


ユウ「えっと、先ほどうちの病院の医師から電話が行ったと思うんですけど…」











刑事「ああ、殺人の脅迫を受けている方ですね?」























話が大きくなってます。
ただのチェーンメールです。






刑事「じゃあ、ちょっとお話を聞きましょうか」


そう言うと、僕は明らかなマジックミラーがある、
机一つしかない、
殺風景な部屋に通されました。














ここって、取調室じゃん。













俺、犯人扱いじゃん。










刑事さんは、イスにかけると、まずこう言いました。

刑事「さて、何から聞きましょうか」













ていうか、
こっちの方が色々と聞きたいんですけど。










僕は、何とか気持ちを落ち着かせると、その刑事さんを観察しました。
頭はハゲ上がってて、少し太り気味。
一見すると、暴力団を取り締まる方なのか取り締まられる方なのか分かりません。

果たして、この人に「メール」とか「ネット」とか、
理解できるんだろうか。








刑事「で、どのような脅迫を受けたんですか?」




刑事はすさまじい迫力で、僕に言ってきます。

考えている時間はありません。

日本の警察はコンピュータを駆使して、犯人検挙をしていると言います。
その警察のトップとも言える、この刑事が知らないわけはない。


僕は、とりあえず聞いてみました。

ユウ「あの、ネットのこと、分かりますか?







今から考えると、とても失礼な質問でした。

しかし刑事さんは、やさしく答えてくれました。






刑事「もちろん御存じですよ」







不自然な丁寧語に、怒りのオーラを感じました。






僕は疑うのをやめ、すぐに相談を始めることにしました。








ユウ「あのですね、チェーンメールが届いたんですよ」








すると、刑事さんは、一言一言をメモし始めました。











刑事「えっと、ち・え・ぇ・ん・め・え・る……


















この人、ひらがなで書いてるよ。












絶対に理解してないよ。


















刑事「そして?















九九を理解していない小学生に、
分数の割り算を教える教師の気分は、
こういうものなんでしょうか。









さあ、果たしてユウはこの刑事を理解させ、
無事に任務を遂行することができるのか!?





モーニング女医。~kyohaku3

(昨日までのあらすじ)
マヤが受けたチェーンメール。その相談のために、なぜか警察署まで行かねばならなくなったユウ。
さらに担当の刑事には、「チェーンメール」という単語が通じていない!
果たして、ユウに明日はあるのか!? さらに、日本国家に未来はあるのか!?



ユウ「ですから、チェーンメールというのは、不幸の手紙みたいなもので…」

刑事「それと殺人と、どう関わるんですか?」




石器時代にテレビを持っていった
未来人
も、こんなに説明に苦労するのでしょうか。



ユウ「ですから、電子メールが、色々と送られてくるんですよ。で、そこに脅迫まがいの文が…」

刑事「あの、つかぬことをうかがいますが」

ユウ「はい?」



刑事「その電子メールというのは、誰でも入れるんですか?















僕は今、世界で一番無駄な時間を過ごしていると断言できました。


しばらくの説明の後、刑事さんはやっと理解してくれたように、言いました。

刑事「なるほどぉ。メールって、そういうものなんですね。あ、じゃあもう一つ聞きたいんですが」


ユウ「…なんでしょうか」


刑事「i-modeって、何ですか?












それは、今は関係ないから。



さらにしばらくの説明の後、刑事さんは言いました。

刑事「ははぁ…。分かりました。で、ですね」

ユウ「はい?」

刑事「そのドクターのメールアドレスは、色んな人が知ってるんですか?」

ユウ「はい、知ってます」

刑事「なぜ?」

ユウ「それは、メールマガジンを発行していますので…」



刑事「ああ、メルマガね













どうして、メールマガジンに関しては、そんな
略語まで知ってるんだよ。



刑事「メールマガジンというもので、かなり怪しげなネズミ講
違法な情報が、やり取りされているというのは、有名な話なので」


ユウ「…へぇ…」

刑事「で、参考のために聞かせてもらいますが」

ユウ「はい」

刑事「そのメールマガジンは、何ていう題名なんですか?」































はい?



刑事「その、先輩の女医さんが発行しているメルマガの題名ですよ」
















僕ちん、何でここにいるんだろう。



ユウ「あ、あの…」

刑事「はい」

ユウ「じょ、じょ、女医マヤの










刑事「女医マヤの?















僕が悪かったです。
もう帰らせて下さい。


刑事「続きは?」


ユウ「せ、セクシー…










刑事「セクシー!?
















お母様、先立つ不幸をお許し下さい。


マヤ先生にいじめられ、たどり着いたのがこの結末という僕のキャラ、
とっても美味しゅうございました。







(数分後)

刑事「ほう…女医マヤのセクシー心理学ねぇ」


刑事さんは、タバコを一服すると、言いました。







刑事「それは、まともなメルマガなんでしょうな?」





……










…………





自信を持って答えられない。



刑事「まあ、いいです。とりあえず、調べてみますわ」


魂の抜け切った僕を尻目に、刑事さんは部屋の外に出て、誰かと電話で話をしました。

そして、戻ってくると、嬉しそうに言いました。


刑事「このチェーンメールの発端となった殺人事件、
存在してないそうですよ!!!



















知ってたよ。






マヤ「なあんだ、じゃあビクつくことないわねぇ


帰ってからそのことを伝えると、マヤ先生は、嬉しそうにそう言いました。



マヤ「心配して、損しちゃった













それ以上に大きなものを、
たくさん失いました。



僕はそう思いながら、極度の疲労のために、ベッドに倒れこみました。




ノギマノンさん
からいただきましたーー!
素晴らしいです。感激のリアルタッチです。

でも実際は情けないできごとでした。



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