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モーニング女医。 5/19 ~アテネで待ち合わせる女医。1
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「では、9日の7時にアルタの前で」
「じゃあ、今夜の6時にハチ公ね♪」
皆さんは、こんな待ち合わせを、今までに何度もしてきたことでしょう。
でも、その時に僕が聞いたのは、いまだかつて聞いたことのない言葉でした。
マヤ「じゃ、18日の2時に、パルテノン神殿でね」
うわあ、渋谷から徒歩何分?
マヤ「いいわね? じゃあ決定ということで」
ユウ「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 話についていけません」
するとマヤ先生は、小さな子供にやさしく諭すように、言いました。
マヤ「今度の学会は?」
ユウ「確かにギリシャのアテネで行われます」
マヤ「そう! そしてユウ先生は、日本から直接来るのよね」
ユウ「で、マヤ先生は一足先にギリシャ国内を旅行してから、合流するんですよね」
マヤ「理解してるじゃない…。もう一度聞くわよ? 待ち合わせる都市は?」
ユウ「アテネですよね」
マヤ「うん!!! じゃあ18日の午後2時に、パルテノン神殿で」
「アマンド前で」と同じくらい、
サラッと言わないで下さい。
ユウ「ちょっと聞きたいんですけど…。僕はアテネに行ったことなんて、ありません。マヤ先生はあるんですか?」
マヤ「もちろん! ないわよ」
うわあ、案の定。
ユウ「ギリシャは、僕たち二人ともが、はじめて行く国。そこで確実に会うためには、
アルタやハチ公と同じくらい、その場所のことを知っておくべきだと思います。
パルテノン神殿ってどういうものか、知ってますか?」
マヤ「えっと…。どの程度まで説明すればいいのかしら」
あらん限りの知識で説明して下さい。
マヤ「アレよ、アレ! 白いのよね」
未だかつて、パルテノン神殿を
『白い』
で片付ける人を、初めて見ました。
ユウ「他には…?」
マヤ「えっと…。えっと…」
ユウ「他にはありますか?」
マヤ「…黄色?」
色から離れて下さい。
僕は、頭がクラクラになりながら、言葉を搾り出しました。
ユウ「マヤ先生…。僕もあまりよく分からないのですが、パルテノン神殿というからには、
かなり大きなものだと思われます」
マヤ「へえ!!」
ユウ「例えるなら、東京ドームくらいの敷地があるかもしれません」
マヤ「なるほどぉ。日本ではよく、『東京ドーム何個分の広さ』って言うけど、
ギリシャ人は、『パルテノン神殿何個分の広さ』って言うのね!?」
そこまでは知りません。
ユウ「いいですか? ですので今の待ち合わせの言葉は、
『2時に東京ドームでね』って言ってるのと同じなんです。広すぎて分からないんですよ」
マヤ「ははぁ…。でも、分からなくなったら、人に聞けばよくない?」
いまいち話を理解してもらえていない
ような気がしましたが、僕は話を続けました。
ユウ「聞こうにも、言葉だって通じない可能性もあります」
マヤ「だいじょーぶだってば!!」
ユウ「先生…。アテネでは、何語が話されてるか、知ってますか?」
マヤ「アテネ語でしょ?」
せめて、ギリシャ語と言って欲しかった。
マヤ「分かったわよ…。せめて待ち合わせ場所を、もう少しせまくて限定しやすい場所にすればいいんでしょ?」
ユウ「はい。でもだからと言って、逆にアテネにたくさんあるような場所は駄目ですよ?
一個しかないところにしないと…」
マヤ「じゃあ、アテネのマクドナルドの前でね」
全然、話を聞いてませんね。
しかしまさかその時の僕も、
本当にアテネのマクドナルド前で待ち合わせることになるとは、思いもしませんでした。
さあ! 二人は無事に出会えるのか!?
明日に続く!!
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モーニング女医。 5/20 ~アテネで待ち合わせる女医。2
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マイク「なあメアリー! 俺さ、今度初めてニッポンに行くんだ!」
メアリー「あらマイク! 奇遇ね! 私も初めて行くのよ!!」
マイク「グレート! じゃあ、二人で待ち合わさないか!?」
メアリー「そいつはナイス・アイディアね!」
マイク「待ち合わせ場所は…。トーキョーにある、マクドナルドの前で!」
メアリー「あぁ! なんてグッドな場所なの!!」
マイク「じゃあ、また会おう! トーキョーのマクドナルドで!」
メアリー「ええ! トーキョーのマクドナルドで会いましょう!」
何個あると思ってんだ。
アテネへ向かう、飛行機の中。
僕は想像の中で一人芝居を仕上げて、それに自分突込みをしていました。
日本人二人が、初めて行くギリシャで、
アテネのマクドナルドの前で
待ち合わせるというのは、どう考えてもマイクとメアリーと一緒です。
僕は、日本を出る直前にした会話を思い出しました。
ユウ「あのですね…。アテネに一体、何個のマクドナルドがあると思ってるんですか?」
マヤ「だいじょーぶよ!! アテネには、マクドナルドは一つしかないんだって!」
たった今、僕の頭の中の会場のお客様100名に聞いたところ、
80名さまが『信じられない』とのことです。
マヤ「信じてないの?」
ユウ「…どこに書いてあったんですか?」
マヤ「あの有名な、地球の回り方」
今、微妙に違ったよ?
マヤ「知らないの? 旅行の体験談が載っているサイト。まさに最大手よ?」
最大手が、どうして名前をパクる。
マヤ「でも、この情報は確実よ? 私、別の人から聞いたこともあるし」
ユウ「誰からですか?」
マヤ「 アスカ 」
声を小さくしたい気持ちが、分かります。
僕の頭の中の会場のお客様の、
100名さま全員が
『信じられない』に変わりました。
思い出せば思い出すほど、気が遠くなります。
僕は、とりあえずそのことは考えないようにして、眠りにつきました。
アテネに降り立つと、すでに時刻は昼の12時。
待ち合わせまで、あと2時間しかありません。
僕はとりあえず街の全貌を見るたびにアクロポリスの丘に登り、そこにいたギリシャ人に、英語でたずねました。
ユウ「マクドナルドって一つしかないって聞いたんですけど、どこにあるんですか?」
すると、そのギリシャ人は笑いながら、その丘から広がる街を指し示しました。
M 。
M M M 。
M M M M M M M M M M M M M M M…。
アテネ中に並ぶ、マクドナルドの「M」の文字。
僕は、あまりのショックに酸欠になりかけました。
やっぱり、たくさんあったじゃん。
でもここで、マヤ先生を責めても始まりません。
責めても状況が変わらないから、ではありません。
仕返しが怖いからです。
僕は、とにかくこの絶望的な状況に、少しでも希望的な観測をしようとしました。
待てよ? あの「M」って、必ずしもマクドナルドの頭文字とは限らないよな?
ほら例えば、
マゾの頭文字とか…。
っていうか、
『町中がマゾであふれ帰るアテネ』
の方が、よっぽど怖いと思いました。
さあ、色々な意味で、絶望的な状態になってしまったユウ!
果たして、この状況に起死回生の一打はあるのか!?
明日に続く!!
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モーニング女医。 5/21 ~アテネで待ち合わせる女医。3
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「アテネにはマクドナルドは1個しかない」というガセネタ
を信じたおかげで、最悪の事態になってしまいました。
タイムリミット、あと1時間。
その時間でどうやって、数十個もあるマクドナルドの中から、マヤ先生の来るマクドナルドを
見つけろ、と言うのでしょう。
「マヤ先生ー!!」 と大声で叫びながら、
アテネ中を駆けずり回れと言うのでしょうか。
それとも、
「ここに自称セクシーな女医さんが来ませんでしたか?」
と、全てのマックを聞いて回れというのでしょうか。
っていうかそれ以前に、
どうしてマヤ先生が待つ側で、
僕が探す側だと決定しているんでしょうか。
僕はあらためて、
洗脳されている自分に気がつきました。
落ち着くんだ。ユウ。
巨人の星にもあったじゃないか。
『自分が苦しい時は、相手も苦しい』
そう。きっとマヤ先生も、この事実に気づいて、同じように苦しんでいるに違いないんだ。
マヤ「ええ!? アテネにマクドナルドって、何個もあるの!?
あああ!! ユウ先生に悪いことしちゃったぁ…。どうしよう、どうしよう…。
これじゃ会えない。ごめんなさいユウ先生、私が悪かったわ…」
………
そろそろ現実に戻って来い、ユウ。
マヤ先生の性格から考えて、絶対にそんなことはあり得ません。
僕は、マヤ先生を見つけ出すために、最善の手を考えなければいけないのです。
思い出せ。思い出せ。
何か、手がかりとなる情報があったはずです。
僕は、日本を出る直前にマヤ先生と交わした会話を、必死に思い出しました。
マヤ「アテネに着いたら、おいしいもの、いっぱい食べたいわねぇ」
これじゃない。
マヤ「あと、綺麗なカリブ海で、いっぱい泳ぎたいなぁ」
これでもない。
…っていうか、エーゲ海です。
考えれば考えるほど、頭は混乱してきます。
他には、他には!?
マヤ「そういえば、そのマクドナルドの近くで、面白い行進している人がいるんだって」
……………
これだよ。
この情報は、もしかしたら正解に近づくカギかもしれません。
でも、行進とは一体何なのでしょうか。
行進…。行進…。面白い行進…。
いくら悩んでも、
エレクトリカル・パレードしか思いつきません。
パルテノン神殿の近くで、ミッキーやドナルドが。
ちゃんちゃりらんらん
ちゃんちゃりちゃららら
(精一杯のエレクトリカル・パレードのイメージ)
めっちゃくちゃ、不自然です。
さあ!! 唯一の手がかり、『面白い行進』とは、一体何なのか!?
そしてユウは、無事にマヤと出会うことができたのか!?
明日に全ての決着が!!
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モーニング女医。 5/23
~アテネで待ち合わせる女医。4
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待ち合わせるマクドナルドは、
面白い行進の近くにある。
でもその面白い行進なんて、どうやって探せばいいんでしょうか。
ていうかそもそも、英語でどうやって聞けばいいんでしょう。
ユウ「ほえあ・いず・いんたれすてぃんぐ・行進?」
最近、
英語力がマヤ先生並に
なってきている自分がイヤです。
僕はしょうがないので、日本人を見つけて聞くことにしました。
アクロポリスの丘のふもとに駆け下りると、二人の女性が、
ガイドブックを片手に通りを歩いていました。
二人は、僕の方を見ると、何やら耳打ちをしていました。
あれ? もしかして脈アリ?
大それた自信を持った僕は、にこやかに近寄りました。
ユウ「あの、すみません。日本の方ですよね…?」
女性「あ、日本語しゃべった」
どういう意味ですか。
カンボジアの人にでも見えましたか。
僕は、何もかもがどうでも良くなりそうになりましたが、
何とか気を落ち着けると、二人に聞きました。
ユウ「あの、このあたりに面白い行進ってありませんでしたか?」
女性「え~?」
その後に二人から発された返答を、いったい誰が予想できるでしょうか。
女性「それ、さっきも女の人に聞かれた」
マヤ先生、あなたもか。
ユウ「それって、髪の毛がセミロングで、外にハネてて…」
女性「そうそう!」
僕は次のセリフを言おうかどうか迷いました。
ユウ「少し目がキツい女性でしたか?」
女性「え? 目はやさしそうでしたよ」
それってやっぱり、
キツいのは僕にだけ
だったんですね。
女性「その人、ガイドのこのページ見て、走って行きました」
ユウ「え?」
それは、国会議事堂の前で、ギリシャの衛兵さんが
衛兵交代をしている写真でした。
足を大きく振り上げ、手を構えて歩いている姿は、
見方によっては面白い行進です。
でも。
これをギリシャ人に『面白い行進』と聞いていたら、張り倒されるところでした。
ユウ「ありがとうございます!!」
時間はあと5分です。僕は慌てて駆け出しました。
10分後。息も絶え絶えになりながら、国会議事堂に着きました。
あたりを見回すと、100メートルほどの距離にマクドナルドがありました。
僕は急いで店内に入ります。
すると中には見覚えのある後ろ姿の女性がいました。
ユウ「マヤ先生!?」
その女性は、黒髪をたなびかせながら振り向きます。
僕の姿を認めると、大きく目を見開きます。
間違いなく、マヤ先生でした。
ユウ「マヤ先生ー!!」
マヤ「ユウ先生ー!!」
僕たちは駆け寄ります。
時間はゆっくりと流れ、まるで映画のラストシーンのようでした。
マヤ「遅刻した罰として、テリヤキバーガーおごってよ」
その一言さえなければ。
初日ですべての気力を失ってしまった僕は、
残りの日々をほとんど寝て過ごしたのでした。
完