モーニング女医。~tochoku1


マヤ「ねえ、今夜、空いてる?」
















一般の女性に言われたのなら、これほど嬉しい言葉はありません。
















でも、明らかに一般でない女性に言われたのなら、これほど怖い言葉はありません。








マヤ「あのね、今日行って欲しいところがあるんだけど」



















まだ僕、何も答えてません。












ユウ「ど、どこですか?」


そう思いながらもつい返答してしまう僕が、可愛くて情けなくて、たまりません。







マヤ「あのねぇ」

ユウ「はい」

マヤ「綺麗なお姉さんが、いっぱい



ユウ「はい!?













マヤ「いた夢のような場所よ



ユウ「い、行きます! 行きま…
























…………ちょっと待って下さい。








今、すごく小さな声で、















「いた」って言いませんでしたか。





















過去形なんですか。












マヤ「今、『行きます』って言ったわよね



















言いましたけど、言ってません。










マヤ「聞いたわよ、私は」











闇討ちに成功した野武士みたいな顔をしないで下さい。

















マヤ「助かったぁ…。医療老人ホームの当直を探しててね。つい最近までは若い看護婦さんや女医さんとかがいたんだけど、リオ先生が当直した次の日にほぼ全員がやめちゃってね…。人員不足で困ってたのよ」
















どうか、夢なら覚めて下さい。









マヤ「まぁ、安心して。ご老人ばかりだけど、忙しい職場だから



















それ、フォローになってません。










さあ、いきなり医療老人ホームの当直にされたユウの運命は!?
明日に続く!

ユウに愛のメール、お待ちしています。


モーニング女医。~tochoku2


はなぞの医療老人ホーム。

江戸時代から建っているのではないかと思わせるような建物に、くずれかけたレンガの壁。




僕は、本当にここで合っているのか、何度も何度も確かめました。







あらためてマヤ先生に書いてもらった地図を見直すと、不審な点が何個かあります。




「赤い車の駐車している道路を、右に曲がる」




















その車は、永遠に動かないオブジェなんですね。














「突き当たってから、さらに50メートル直進」























突き当たったら、進めません。











「あとは、→↑→↑と行く」























裏ワザのコマンドですか。











僕は、今目の前にしている建物が、当直の場所だということを、どうしても信じたくありませんでした。

しかし、そこには確実に、「はなぞの医療老人ホーム」と書いてあります。






僕は、覚悟を決めて中に入っていきます。



すると中には、あふれるほどの、おじいさん・おばあさん。
さらに忙しそうに走り回る、年輩の看護婦さんたち。





僕は、誰にも聞ける雰囲気ではないと思い、一人で「当直室」と書いてある部屋の中に入っていきました。



あとはここで、今日の日勤のドクターを待つだけです。

僕はその時に、マヤ先生に言われた言葉を思い出しました。



マヤ「いい? 日勤のドクターは、とっても気難しい人だから、絶対に怒らせちゃダメ。
ユウ先生が体験したことのない、地獄を見ることになるわよ?




















普段の僕の生活を、地獄じゃないと言い切りますか。






僕はそこまで思い返すと、ため息をつきました。

何にせよ、そのドクターを怒らせないようにしなければ。







そんな時です。よぼよぼのおじいさんが、当直室の中に入ってきました。
ボーッとしていた僕は、ドアが開けっ放しだったのに気がつかなかったのです。

カルテなど、重要な情報もたくさんある当直室に、他の人を入れるわけにはいきません。
もし入れたりしたら、日勤のドクターに確実に雷を落とされます。

ユウ「ダ、ダメですよ、おじいちゃん。ここに入ってきちゃあ」




老人「……」



そのご老人は、僕の言うことを無視するかのように、中に入ってこようとしてきます。



僕は、少し慌てました。


ユウ「ちょっとちょっと!! ダメですって!!
ちょっと待ってて下さいね! 誰か先生を呼んできますから」











老人「ワシだが」




























え?






















さあ、ここで2択です。





その1。

このおじいちゃんは、ちょっとボケて自分をドクターだと思い込んでいる。



















その2。


この人は本当にドクターで、ボケていたのは僕。



















老人「当直のユウ先生だね?」
















ドクターでした。








世界は、終わりました。














さあ、ユウの運命は果たしてどうなるのか!?
明日に続く!

ユウに愛のメール、お待ちしています。


モーニング女医。~tochoku3


ゆっくりと、カルテを書き始める、老人の医師。


このベランダ…もといベテランの医師を、「患者さんと間違えてしまった」。

僕は、取り返しのつかないミスをしてしまいました。



ユウ「せ、先生。さっきは、申し訳ありませんでした」





医師「あぁ!?」















めっちゃくちゃ、怒ってます。





僕がそう思ったときです。
年輩の看護婦さんが入ってきて、その医師に言いました。


「先生、採血お願いします」







医師「あぁ!?」




















耳が遠いだけでした。















この病院、本当に大丈夫なのかと心配しました。







どうしてこんな当直ネタで何日も続くんだと本人も思いつつ、
明日へ続く!!

とりあえずこまめにでも更新しようというユウに愛のメール、お待ちしています。


モーニング女医。~tochoku4


午前3時。

限りなく患者さんとの境界が不明瞭な老医師が帰った後、僕は一人で不安そうに当直室におりました。


その時までに何回か呼ばれましたが、それほど大きな問題は起こっていませんでした。医療老人ホームといっても、大半の患者さんは安定されているみたいです。

そうなると問題は、外からの急患です。



あと4時間で朝が来る。

頼むからそれまで、何も起こらないで下さい。


僕は都合のいい神頼みをしながら、ただひたすら朝が来るのを待っていました。


そんな時です。


看護婦さん「先生! 急患です! 救急車がまもなくこちらに向かってくるそうです!!」




















オー マイ ガッデム。






しかし、冷静な僕は、慌てず騒がず、答えました。

ユウ「どどどんな状態なんですか?




頼むから、便秘とかその程度であってほしい。
僕は心の底から、そう願いました。











看護婦さん「何か、刃物で刺されたとか
























なぜ、医療老人ホームに連れてくる。




僕は心の中で激しく突っ込みましたが、来るというものはどうしようもありません。

心臓が鼓動で張り裂けそうです。









数分後、救急車が到着しました。

急いで診察室に駆け込む僕。







ユウ「え?」





その患者さんは、頭はパンチパーマ。頬には古傷
腕には金時計をつけ、縦じまのスーツを着ていました。
また破れた服から覗いた腕には、トラの刺青が見えました。


















ちょっとファンキーなオジサマですね。








男性「チクショー! 竜○組の奴ら、許さねぇ!!




















それは、僕の幼稚園の時の、
ひよこ組とは違うレベルですよね。





















男性「おい、何見てんだよ、ボーズ!!






























ボクのことですか。











看護婦さん「先生! 縫合の準備ができました!!」









当然ですが、

医療に、失敗は許されません。























でも今回は、












別の意味でも、失敗は許されません。





ユウ「ちょ、ちょっと待って下さい!」

看護婦さん「はい! どのくらいですか!?」
















できれば、あと3日ほど。

















その間に、もっと縫合の練習してきますから。









男性「あんた先生か!? はやくやってくんな!!











さあ、どうなるユウ!?



明日に続く!!




『ユウ先生が日記を書いてない夜は、悲しくて眠れません』という


M先生の叱責の数倍書く気力が湧いてくるご感想

ありがとうございました。
引き続き、ユウに愛のメール、お待ちしています。


モーニング女医。~tochoku5


僕は、その男性の腕の傷を縫合しながら、必死に自分に言い聞かせていました。








この人は、一般の人だ。






決して、怖い職業の人じゃない。









頬にキズがあって、







髪の毛がパンチパーマで、









背中に大きなトラの刺青がある点を除けば…













除けば…

 

















どうしても、除けないよ。

















男性「いてっ!!」












血が凍ります。













男性「もっと上手にやってくれよ! コラ!!」




ユウ「うるさい! ケガ人は黙って、治療を受けていろ!


























と、心の中で叫びながら。










ユウ「も、もうちょっとガマンして下さいねぇ…」

















今なら、







日本一腰の低い医者コンテストで優勝する自信がありました。









何とか縫合を終えると、その男性はポケットから携帯を取り出しました。





男性「ちょっと、右腕がつかえないから、俺の代わりに電話をしてくれないか?」



ユウ「甘ったれるな! そんなのは自分でやれ!













って言えたらカッコいいな、と思いながら。









ユウ「どこにですか?」














世界一腰の低い医者コンテストでも優勝する自信がありました。















男性「アニキのところだ!」















どう考えても、実の兄ではないでしょう。











ユウ「えっと、番号は?」






男性「んなのは、メモリに入ってるだろうが!!













名前を聞いてないんですけど。




ユウ「あのですね」





男性「早くしろよ!!





ユウ「はい!



僕は、しょうがなくメモリをチェックします。



名前もわからないのに、どうやって調べるって言うんだよ…。


そう思いながらも、順番に見ていきました。











すると。










相川 修  090-3009ー19◎◎


浅沼 健二 090-1577ー33◎◎





アニキ 090-3227ー24◎◎
















「アニキ」で登録してるんですか。


















アニキの本名、ちゃんと覚えてますか。







僕は心の中でそう突っ込みながら、ダイヤルをします。


男性は、つながると同時に僕の手から、携帯を引ったくりました。


僕は、少しずつ怒りが湧いてきました。



どうして夜中に起こされて、何とか治療もしてあげたのに、こんな態度を取られなきゃいけないんでしょう。






よし、ガツンと言ってやる。







ユウ「あのですねぇ!」








男性「あ、アニキっすか!? ついさっき、竜◎組のヤツラに囲まれちまいまして…。
何人か若いのよこしてくれますか? 徹底的にやってやらなきゃ、気がすまねぇ!!
























ケガ人にはかわいそうだから、
ガツンと言うのは、今度にしよう。










そして僕は、二度とこの病院の当直には来ないと誓いながら、仮眠室に戻ったのでした。


ユウに愛のメール、お待ちしています。

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