モーニング女医。~riokon1
リオ「なあ、ユウ。彼女欲しくないか?」
全ては、リオ先生の一言から始まりました。
リオ「欲しいだろ?」
欲しいです。ノドから手の第2関節まで出てくるほど、欲しいです。
リオ「よし、じゃあ、『どんなにモテない男でも、絶対に彼女ができるウハウハのイベント』に招待してやろう」
いまどき、『ウハウハ』。
僕はそう思いましたが、あえて突っ込むことはしませんでした。
それ以上に胸が躍る言葉があったからです。
「絶対に彼女ができる」?
もし、本当にそうだとしたら。
これでもう、
バースデーケーキに自分でろうそくを立て、自分で火をつけ、自分で吹き消し、自分で片付ける必要がなくなるんですね。
『手作りチョコ』の味を知りたくて、自分で作って食べて、余計虚しくなることもなくなるんですね。
クリスマスに、男同士でプレゼント交換して、ツナ缶が回ってくるという悲しみを味わわなくていいんですね。
その時の僕には、リオ先生の顔が天使に見えました。
ユウ「何なんですか、そのイベントって?」
リオ「合コンだ」
結局、合コンですか。
そのあまりに安直な展開に呆れた僕は、キッパリと言いました。
ユウ「ぜひ、参加いたします」
リオ「OK! これで決まったぜ! じゃあ、今夜7時に、吉祥寺のカラオケボックスでな」
ユウ「はい!!」
リオ「いいか? ちょっとくらい遅れて来るんだぜ? それによって、イニシアチブを握ることができるからな。間違っても、早く来すぎたりするなよ? 合コンを待ちきれなかったみたいで、カッコ悪いからな」
ユウ「はい!!!!」
僕は、その言葉を心に刻み込みました。
そして、約束の7時。
30分前から待っていた僕は、寒さに震えていました。
心の温度、すでに零下273℃です。
今なら、バナナで釘も打てます。
しかし、そんな時です。
「はじめまして! アイでーす♪ 短大生でーす!」
「カナです。目白の女子大に通ってます」
「ミキです~。今は看護学校に行ってまぁす」
温度が、一気に沸点まで上がりました。
さあ、果たしてユウは、新たな恋をゲットすることができるのか?
明日に続く!
恵まれそうですが、ユウに愛のメール、お待ちしています。
モーニング女医。 ~riokon2
リオ「アイちゃんって、彼氏いるの?」
アイ「え、今募集中なんですよぉ」
男性3人対女性3人のコンパは、かなり盛り上がっていました。
アイ「リオさんは、付き合っている人、いないんですか?」
リオ「俺、今いないんだよ」
アイ「またまたぁ。ホントですかぁ~?」
ユウ「あ、僕もいないんですよ」
女性全員「ですよねー」
何だよ、その違いは。
アイ「えっと…。あなたは、誰か付き合っている人、いるんですか?」
聞かれた男性は、何も答えず、無言でじっとしていました。
リオ「あ、こいつジンっていうんだ。ごめんね、無口で」
ジン「…………」
ジンさんはさっきから一言も喋りません。
筋骨たくましく、眉は太くキリっとしており、目がとても細く鋭い男性でした。
リオさんと同期の精神科医の方らしいのですが、
さっきからひたすら、ただ黙ってジントニックを飲みつづけていました。
リオ「ジン、お前も彼女、いないよな?」
するとジン先生は、黙ったまま、激しく首を上下しました。
さながら、ロックコンサートのファンの人たちの「バンキング」のようでした。
リオ「こいつ、シャイでさ」
シャイとか、そういうレベルじゃないと思います。
リオ「こいつ、すっごく硬派なんだよ。それに、夢をまだ捨てていないんだ」
女性「へー! カッコいい~♪」
リオ「こいつ、いつも言ってるんだよ。大きくなったら…」
まだ大きくなるつもりですか。
リオ「ハードボイルドになりたいんだってさ」
それって職業じゃないと思います。
リオ「ゴルゴ13に似てるだろ?」
女性「あー、似てる似てるー!!」
すると、ジンさんは、顔を真っ赤にして頭を掻き始めました。
リオ「あ、嬉しがってるぞ!!」
それは、嬉しいことなんですか。
リオ「あ、ジン! そういえば、紹介がまだだったな。こいつ、ユウ! 俺の後輩な!!」
ユウ「あ、よろしくお願いします…」
すると、ジンさんは、そのいかつい顔のまま、僕の方に両方の手の平で小さく「Uの字」を作って、「こう?」という感じに首をかしげました。
何キャラだ、あんたは。
リオ「それでは、10円玉ゲームをしまーす!!」
女性一同「10円玉ゲーム!?」
リオ「はい、10円玉ゲームとは、ハンカチの下に10円玉を入れていくゲームです! 質問に対して、イエスなら表、ノーなら裏を入れて下さい!
言ってみれば、不在者投票ですねー!!」
それを言うなら、無記名投票です。
リオ「まあ、だからカンタンなアンケートゲームだと思ってくれてオッケー!」
女性一同「はーい!!」
リオ「それでは、最初はカルい質問から行きますー!!!
今日、絶対に誰かと、うふふな関係になりたいって思う人ー!!」
いきなりかい。
さすがにいきなりマズいかな、と思った僕は、「ノー」として裏返しにしておきました。
リオ「みんな、入れたー!?」
女性「ハーイ!!」
そして、リオ先生はワクワクしながらハンカチを上げました。
すると、ノーが4つに、イエスが2つでした。
リオ先生がイエスなのは、当然です。
すると、もう一人は…。
全員、無言のまま、互いに見つめあいました。
すると、なぜか目が5人分しかないのに気付きました。
僕は、まさか… と思いながら、右を見ました。
するとそこには、
真っ赤な顔をしたまま目をそらしているジン先生が、テーブルに「の」の字を書いていました。
あんたかい。
さあ、キャラもチームワークもバラバラな彼らが、見事女性たちのハートをゲットすることができるのか!?
明日に続く!
ユウに愛のメール、お待ちしています。
モーニング女医。~riokon3
合コン、終了間際。
リオ先生とジン先生は、それぞれに女の子と盛り上がっておりました。
アイ「リオさんって、スゴイですよねー♪」
リオ「はっはっは。それほどでもあるさ」
やっぱり、謙遜しませんよね。
ジン「……………」
ミキ「シブいですよねぇ、ジンさんって…」
その人を、シブいで片付けるんですか。
そう思いながら、僕はため息をつきました。
僕だけが、女性と盛り上がっていません。
カナ「あの…。ユウさん…」
ユウ「はい!?」
カナ「このお皿、片付けてくれますか?」
店員さあん。
リオ「ユウ、ダメだぞ、ガンガンに口説かなきゃあ」
すると、ジン先生も、こっちを見つめながら、「そうそう」と首を上下します。
あんたに言われたくないです。
リオ「よーーーーーーっし!! じゃあここで一発、王様ゲームだー!!」
女性一同「いぇーい!!!」
王様ゲーム。
以前、男3人で試しにやってみて、夢どころが悪夢としか思えなかった、あの「王様ゲーム」のことですか。
その後で、今度は夜勤中に一人でやってみて、
「おうさまだーれだ?」
「はい、ぼくでーす!」
と一人で叫んで、1時間ほど自己嫌悪に陥った、あの「王様ゲーム」のことですか。
リオ「もちろん参加するよな、ユウ?」
僕は、王様ゲームのイヤな記憶を思い出した上で、キッパリとこう答えました。
ユウ「ぜひ、参加します」
リオ「オッケー! それでは、全員ハシを引いてねー!!」
僕の頭に、アイさんのほっぺたや、カナさんの太ももや、ミキさんの胸がチラつきました。
生きててよかった。
そして、10分後。
ジン先生のジョリジョリのヒゲと、リオ先生のすね毛と、飲み屋のオヤジの腹の脂肪の感触に呆然自失の僕がいました。
カナ「じゃあ私、明日早いので…」
そそくさと帰っていくカナさん。
リオ「じゃあな、ユウ!」
アイ「ねえ、どこ行く~?」
リオ「そうだな…」
ミキ「今度遊びに行ってもいい?」
ジン「………………(うなずく)」
ミキ「やったー!」
人生って、なんだろう。
僕はそう思いながら、こうして日記を更新するのでした。
完
ユウに愛のメール、お待ちしています。