精神科医ユウの日記 女王日記 ~ 整形外科を受診する女医 |
みなさまこんにちは。
ゆうきゆうです。
この「モーニング女医」ですが、単行本発売と一緒に「女王日記」と名前を変えることといたしました。
関係者(だれ)のみなさま、今後ともよろしくお願いいたします。
最近マヤ先生と、こんな話をしました。
マヤ「最近、微妙に首が痛くなることがあるのよ」
ユウ「はい」
マヤ「でね、病院に行ったの」
ユウ「はい」
ここまでは、普通の会話だと思っておりました。
その瞬間、先生の表情が一変したのです。
マヤ「でね!? 整形外科のクリニックじゃなくて、総合病院に行ったのが間違いだったのよ」
ユウ「は?」
マヤ「鬼のように混んでたわ…。地獄だった」
先生は、地獄の基準がとても甘いのではないかと思いました。
やや話がそれますが、先生は「地獄」という言葉をよく使います。
マヤ「地獄的にムカついた」
マヤ「地獄レベルに泣けた」
とかならまだ分かりますが、
マヤ「地獄的にステキ」
と言っていたときは、いいのか悪いのかまったく意味が分かりませんでした。
とりあえず単なる「最上級」だという理解をしているんですが、時に
「無間地獄(むげんじごく)的に」
という言葉も出てくるので、さらに上はあるような気がします。
マヤ「話、聞いてる?」
ユウ「はい。聞いております」
すると先生は言いました。
マヤ「でね!? 10分待った時点で聞いたら、『まだしばらく待ちます』って言われたのよ」
10分で聞かれる相手もかわいそうだと思いました。
マヤ「それどころじゃなくてね!? 20分たっても、30分たっても同じ答えなのよ!?」
10分ごとに聞かれる相手がかわいそすぎると思いました。
マヤ「それによ!? 診察室におじいさんが入ったと思ったら、こんな会話が聞こえたのよ!?」
ユウ「なんですか?」
マヤ「『いかがですか? スズキさん』
『いやぁ先生、今日も昨日と同じで調子がいいですよ』」
ユウ「………」
マヤ「調子がいいなら来るんじゃないわよ!」
先生、それ言っちゃダメです。
僕は心の底からそう思いました。
マヤ「それに、さらにこう言い出すのよ」
ユウ「は?」
マヤ「『実はうちで最近ネコ飼いだしたんですけどね』
『はぁ、ネコを!』
『そのネコが時々足を痛そうにしてるんですわ。何の病気なんでしょう?』」
ユウ「………」
マヤ「獣医じゃないのよその男は!!」
先生、落ち着いてください。
それにまだ会ったことのないドクターを「その男」呼ばわりするのも、どうかと思います。
マヤ「そしたらその医者、何て言ったと思う?」
ユウ「なんですか?」
さぁ、その医者が言ったというセリフとは!?
(つづく)
精神科医ユウの日記 女王日記 ~ 整形外科を受診する女医 2 |
◆ ここまでのあらすじ。
マヤ先生は首が痛いとのことで総合病院の整形外科を受診。
さんざん待たされたあげく、診察室の中では、
『そのネコが時々足を痛そうにしてるんですわ。何の病気なんでしょう?』
という会話が。
それにたいして整形外科医は何と答えたのか?
◆ 本編
マヤ「そしたら、そのドクター、こう言ったのよ」
ユウ「………」
マヤ「『ネコちゃん、お名前なんて言うんですか?』」
ユウ「………」
マヤ「その話題をそれ以上広げるんじゃないわよ!」
先生、それくらいに。
マヤ「でもその医者、結局『ネコの足が痛い』ことはスルーしてるんだけど」
ユウ「…あぁ…。そうですよね…」
マヤ「たぶん『分からない』とは言いたくなかったのかもね」
まさかそのドクターも、そんなところで分析までされてるとは思わなかったと思います。
マヤ「でも、そしたらその患者さん、『興味示された!』と思ったらしくて、大喜びで話し始めたのよ」
ユウ「え?」
マヤ「『トラって言うんですよ! ほら、ネコってトラ科でしょ!?
別にトラみたいに凶暴ではないんですけど、ときどき食卓に上がろうとして、それを怒ると…』」
ユウ「………」
マヤ「私が怒るわ」
ですよね。ですよね。
マヤ「ていうか、その話の続きは私が聞くから、早くそこから出ろ、って思ったわ」
うん。
そう言うと思いました。
しかも先生が聞いたら、
その患者『トラって言うんですよ! ほら…』
マヤ『だから?』
とかになりそうな気が濃厚にしましたが。
ユウ「…大変でしたね…」
マヤ「焦熱地獄的に最悪だったわ」
あぁ、また地獄が。
「焦熱」部分は、たぶん夏バージョンなんだと思います。
ユウ「で、診察の結果、どうだったんですか?」
僕はとにかく話を戻そうとしました。
マヤ「ていうか、帰った」
ユウ「は?」
マヤ「もうその時点で『もうダメだ』と思って、キャンセルした」
先生、切なすぎです。
ユウ「あの、首は」
マヤ「まだ痛い」
ダメですよね、それ。
典型的にダメですよね。
僕は心からそう思いました。
ユウ「え、それで、どうするんですか?」
マヤ「どうしようかしら」
ユウ「こんなとき、ここが病院だったらいいんですけどねぇ」
マヤ「そうねぇ」
ユウ「………」
マヤ「………」
ユウ「病院ですよね、ここ」
マヤ「私もそう思った」
ときどき本気で忘れかけます。
ユウ「整形外科の先生もいますよね」
マヤ「私もそう思った」
心の底から切ないです。
マヤ「整形外科と言えば…!」
ユウ「………」
僕とマヤ先生のあいだに、一人の女医さんの顔が浮かびました。
マヤ「………」
ユウ「………」
マヤ「大麻ね…」
大麻とは!?
精神科医ユウの日記 女王日記 ~ 整形外科を受診する女医 3 |
◆ ここまでのあらすじ。
「首が痛い」というマヤ先生。
「自分たちのいるここは病院で、そこには整形外科医もいる」ということを今やっと思い出す。
マヤとユウの脳裏に浮かんだ「大麻ちゃん」とは?
◆ 本編
うちの大学病院には、整形外科があります。
整形外科には、リハビリ師(理学療法士)さんがいます。
この理学療法士さん、不思議なことに、ほとんど女性なのです。
くわえて、ほとんどが。
マヤ「………」
ユウ「………」
マヤ「なぜか、大半がグラマーなのよね」
ユウ「同感です」
マヤ「ムダにグラマーなのよね」
「ムダに」て。
確かに理学療法とグラマーさは、まったくといっていいほど関係ないですけども。
というか「グラマーさがムダじゃない職業」って、ごく一部をのぞいてそうそう存在しないと思います。
マヤ「まぁ、おかげでリハビリ室がいつも男で混んでるわけだけど」
ユウ「同感です」
自分も一度行ったことがあるんですが。
必要以上に、熱気を放っていました。
あれは見ていて切なかったです。
そして。
その中でも、一番が。
マヤ「一番が、大麻ちゃんね」
ユウ「はい…」
整形外科には、女医さんがいます。
下の名前が、麻子先生。
しかし彼女は、ドクターの中で常に「大麻ちゃん、大麻ちゃん」と呼ばれてます。
その由来には説が2つあります。
一つは「大ボケ」な「麻子」先生だから、大麻ちゃん。
もう一つは、「胸が大きい」「麻子」先生だから、大麻ちゃん。
マヤ「………」
ユウ「………」
マヤ「個人的には、2つ目の説が有力だと思ってるわ」
個人的には、どっちでもいいと思います。
いずれにしても、男性患者の人気は特に高く、
「大麻」なみにハマっている人間も多い、という意味からも定着が強かったようです。
マヤ「あ、いた」
今の時間は昼休み。
リハビリ室のはじっこにあるテーブルで、麻子先生は居眠りをしていました。
マヤ「昼寝大麻ね」
そんな、四字熟語みたいな。
僕たちはそばまで近づきます。
マヤ「………」
ユウ「………」
テーブルに突っ伏したまま、麻子先生は眠っています。
よく見ると、微妙に自分の胸に、頭を乗せているようでした。
マヤ「………!」
ユウ「………!」
マヤ「低反発なのかしら…」
それは知りませんけども。
マヤ「スウェーデン製なのかしら…!」
それも知りませんけども。
マヤ「お昼のショッピッグで買えるのかしら」
出てたら絶対に買いますけども。
マヤ「今度、大麻クラって呼んでやろう」
先生、それはセクハラです。
僕も脳内で同レベルの妄想をしていましたが、心からそう思いました。
麻子先生は、そんな二人の会話をよそに、ほぼ熟睡しているようでした。
ユウ「あの、ジャマしちゃ、悪いのでは…」
マヤ「大麻ちゃーん! 起きてーー!」
そんな心配は、マヤ先生には何の意味もないことを忘れていました。
大麻「……は、はい!」
その声に、麻子先生はビクッとし、直後に飛び起きます。
マヤ「おはよー!」
ユウ「お、おはようございます…」
大麻「お、お……」
次の瞬間、麻子先生が言った、とんでもない言葉とは!?
そして先生の診断結果とは!?
待て、次回更新!
(つづく)
女王日記
~ 整形外科を受診する女医 最終話
◆ ここまでのあらすじ。
首を痛めたマヤ先生。
しかたがないので、「大麻ちゃん」こと、整形外科の麻子先生に診てもらうことにする。
昼寝中の麻子先生を起こすと…!?
◆ 本編。
マヤ「おはよー!」
ユウ「お、おはようございます…」
大麻「あ、お…」
すると麻子先生は、マヤ先生の顔を見て、こう言いました。
マヤ「………」
ユウ「………」
大麻「お断りします」
まだ、何も言ってないのに。
僕、目が覚めての第一声が「お断りします」という状況に、生まれて初めて遭遇しました。
普段からマヤ先生がどれだけムリなことを言っているのかが、微妙に分かる気がしました。
マヤ「いいから、お願い。ちょっとだけ私のこと診てほしいんだけど…。時間ある?」
大麻「えっと…。今は…」
すると麻子先生は、寝ぼけ眼で口の周りをふきながら、言いました。
大麻「すみません。今はちょっと忙しくて…」
明らかに寝てただけなのに、「忙しい」と言い切った。
ここまで見事なウソは見たことがありません。
マヤ「……!」
マヤ先生の頬が、ピクッと動きます。
ユウ「い、いや、麻子先生、忙しいんですよね? 何かお仕事があるとか…」
僕は精一杯のフォローをしようとしました。
大麻「そうなんです。今はお昼寝しなきゃいけないから」
フォローが一刀両断。
少しは隠してください。その本音。
そう言いつつも、麻子先生は、マヤ先生の視線を恐れてはいるようです。
イジメられっ子が、精一杯抵抗しているようにも思えます。
マヤ先生は、どう説得するのでしょうか。
マヤ「待ちなさい! あなた、整形外科医なのに、本当に診ないの!?」
大麻「え…。だって…」
マヤ「だって、何? その胸は飾りなの!?」
先生、それはセクハラです。
あと本題とはまったく関係ありません。
すると、麻子先生はこう言いました。
大麻「か…」
マヤ「?」
大麻「飾りじゃありません!」
その返答、おかしいですよね。
否定する部分が違いますよね。
マヤ「じゃ、診てよ」
何ですか。その理屈。
大麻「え、でもぉ…」
マヤ「ね、お願い」
大麻「うーん…」
マヤ「いいから診なさい」
大麻「はい」
結局は迫力で押し切りました。
今までの論理は何だったのか。
大麻「…で、どうしたんですか?」
麻子先生がそう言うと、少しだけ真剣な目になりました。
マヤ「…うん…。首が少し痛くてね…。ちょっと前からなんだけど…」
大麻「どのあたりですか?」
マヤ「このへん」
すると麻子先生は、マヤ先生の首に手を当てました。
マヤ「………」
大麻「………」
ユウ「………」
マヤ「どう?」
大麻「そうですね…」
マヤ「うん」
大麻「私の推定ですけど」
推定ですか。
確定診断する気、ゼロですか。
僕は心の奥からそう思いました。
大麻「たぶん、おそらくなんですけど」
「医療に絶対はない」という言葉を先輩に聞きましたが、ここまで絶対がない医療も新鮮でした。
大麻「頚椎が少し不安定で、椎間板が押されてるのかなって」
マヤ「ふーん…」
大麻「X線取れば、確定すると思うんですけど…」
マヤ「うん」
大麻「X線は体にあまり良くないですし、時間もかかりますし、お金もかかりますし」
マヤ「………」
ユウ「………」
大麻「面倒ですし」
本音が出たー!
せめて最後まで建て前で押し切って欲しかった。
僕は心からそう思いました。
マヤ「そうね。面倒よね」
大麻「えぇ、面倒です」
え、何この会話。
こんな医療現場、見たことない。
大麻「いずれにしても、首の牽引と、首の筋肉を鍛える運動をしてみたらどうですか?
それで治らなかったら、また来てください」
マヤ「そっかぁ…」
大麻「そういう方向で、積極的経過観察という感じで」
「全力で放っておく」という言葉をオブラートに包んだ言葉でした。
マヤ「そうね。それでも首が痛かったら、首を洗って待っててね」
何ですか、その微妙な韻の踏み方。
大麻「えぇ。たぶんそれで大丈夫ですよ」
マヤ「えぇ。頑張るわ」
大麻「………」
マヤ「………」
大麻「………」
マヤ「牽引の処方箋、書いて」
大麻「あ、気がつきました?」
そりゃ気がつくと思います。
先生はマヤ先生のカルテを取り寄せると、手早く処方箋を書きました。
大麻「じゃ、時間ないので、そろそろよろしいですか?」
マヤ「えぇ。時間ないところ、ごめんなさいね」
大麻「いーえぇ!」
なんだか、「いいえ」ではなく「YEAH!」と言っているように聞こえました。
全力で肯定。
そして僕たちが立ち去り際に見ると、麻子先生は再び昼寝をしていました。
本当に隠す気ゼロだと思いました。
そして。数週間後。
マヤ先生の状態は良くなっているようで、一応は平穏な日々が過ぎています。
結果的に名医だと思いました。
しかし。
「病院のリハビリ室で、首を引っ張られてる女医さんがいる」
というのが、患者さんたちの間でウワサになりました。
どう考えても目立つと思いました。
なかなかに切ない光景だと思いました。
自分の病院で診療を受けるというのは、色んな意味で決してラクではない。
そんなことを、あらためて認識した今日この頃です。
みなさま今後ともよろしくお願いいたします。
(完)
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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