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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 06/17
~説得される女医。
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その全ては、マヤ先生のたった一言から始まりました。
マヤ「ねえ、ユウ先生? 交換日記しない?」
こ
こ
こ
こ
交換日記。
未だかつて、そんなに甘い響きをもつ言葉があったでしょうか。
僕は、すぐに返答しました。
ユウ「はい!! 今すぐにでも!!!!!」
すると、マヤ先生は悪魔のような天使のような笑顔で、こう言いました。
マヤ「じゃあ、最初の1年は、ユウ先生が書いてね」
それ、交換日記じゃないじゃん。
俺の一人日記じゃん。
~2001年4月10日の日記より
みなさんは、その約束を覚えていますでしょうか。
言うまでもないとは思うのですが、
僕は一度も忘れたことはありません。
つい一昨日、僕はマヤ先生に言いました。
ユウ「先生…。次は、先生の番です…」
マヤ「ナニが?」
言われると思ってました。
ユウ「日記です」
マヤ「どこの?」
ココです。
僕は気が遠くなりながらも、何度も自分に言い聞かせました。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
ユウ「…い、1年で交換という約束でしたよね」
その言葉にマヤ先生は、深くタバコを吸うしぐさをしながら言いました。
マヤ「ユウ先生…? 私は忘れてたワケじゃないわ」
忘れてたワケですよね。
マヤ「でも、考えてみて。この日記を見に来てくれる人は、そんなことを望んでるの?」
ユウ「…え?」
マヤ「あなたの! 生きざまを見たいんじゃないの?」
……………。
落ち着け、ユウ。
流されるな。
相手はカウンセリング100戦練磨のプロだ。
このままだとまた丸めこまれ説得されて、あと10年でも20年でも僕が書かなければいけなくなってしまう。
マヤ「ほら思い出して、ユウ先生。色々な感想のメールが来たでしょう?
ユウ先生がイジメられるのを見ると、仕事の疲れが安らぎますとか、
ユウ先生が虐げられているのを見ないと、眠ることができませんとか、
ユウ先生がアオミドロ以下の扱いを受けているのを見て、自分もまだまだだって安心できるとか」
さすがにアオミドロとは言われていません。
ミドリムシです。
マヤ「そんな彼らの精神的な安らぎを、あなたに壊す権利があるの!?」
「その通りだ」とか納得しちゃダメだ、ユウ。
ここでの正解は「僕の精神的な安らぎは壊れてもいいんですね」だ。
マヤ「たとえあなたの精神的な安らぎが壊れても、それでこそ本望でしょう?」
先読みしてまで否定するとは。
マヤ「ね? じゃあいいよね、ユウ先生。今後ずっとユウ先生が書くということで」
なんだかスゴいことになってませんか。
考えるんだ、ユウ。考えるんだ。
なんとか少しでもこの状況を変える方法を。
そんなとき僕は、心理学手法「ドア・イン・ザ・フェイス」を思い出しました。
はじめに大きな要求を断らせることで、次の小さな要求を断りにくくさせるテクニックです。
…そうだ。それしか、ない。
ユウ「あの、マヤ先生…?」
マヤ「なぁに?」
先生の口調は限りなく優しかったのですが、表情は無限に「反論したら殺すわよオーラ」でいっぱいでした。
ユウ「せめて、せめて…」
大きな要求を断らせるんだ。大きな要求といえば……。
僕の頭の中で、綿密なシミュレーションが組まれました。
ユウ「僕が書くのは、あと3日ってことでどうですか?」
マヤ「それはダメよ」
ユウ「じゃあ、あと1週間ではどうですか?」
マヤ「……しょうがないわねぇ……」
本当にそうなると思っているのか、ユウ。
現実からはるか都合のいい世界に飛んでいないか、ユウ。
マヤ「……なんなの?」
でも、もう考えている時間はありません。
僕は覚悟を決めて言いました。
ユウ「………僕が書くのは、あと3日でどうですか……?」
マヤ「もちろん、ダメ」
ちょっとだけシミュレーションよりもキツいみたいです。
ユウ「じゃ、じゃあ…。あと1週間ではどうですか?」
マヤ「ダメよ」
予想はしてました。
マヤ「ねえ…。じゃあね、ユウ先生? 10年ではどう?」
ケタが違いませんか。
ユウ「……さすがに、それはちょっと……」
マヤ「…困ったわねぇ……。じゃあ、1週間と10年の間を取って、5年と3.5日では?」
確かにちょうど平均ではあるんですけど。
マヤ「…まさかここまで妥協しているのに、ダメとは言わないわよねぇ?」
……………。
ドア・イン・ザ・フェイス返しですか。
それも先生の方のドアって、
ヘブンズ・ドアみたいです。
(注…ジョジョの奇妙な冒険に出てくるスタンド能力。相手の行動を強制的に支配する)
マヤ「……大丈夫だよね、ユウ先生?」
ユウ「……………」
マヤ「まぁ、時には手伝ってあげるから」
ユウ「……………」
そして、30分の激論の末。
ついに、僕の最高の交渉力が勝利を収めました。
5年と3.5日を。
なんと、5年に。
3.5日も減らしたんですよ!?
僕の交渉力ってスゴイと思いませんか、みなさん!?
こんな人生を、今後ともよろしくお願いいたします。
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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。 06/18
~本を読ませる女医。
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こんばんは。ユウです。
つい最近、マヤ先生が僕に本を渡しながら言いました。
マヤ「ねえ、この本を読んでおくといいと思うんだけど。私のオススメ」
それは認知心理学に関する本でした。
とても難解そうなハードカバーに、僕は顔を引きつらせながら言いました。
ユウ「あ、はい。時間のあるときにでも…」
すると、マヤ先生はにこやかに微笑みながら、こう言いました。
マヤ「明日までに読まないと腕立て100回」
それ、オススメっていうより、強制です。
帰宅後、僕は涙を流しながら、静かにその本を開きました。
するとその中に、こんな記述があったのです。
『ストループ効果』について。
ストループ効果?
僕ははじめて目にする言葉に、ゆっくりと読み進めていきました。
ストループ効果とは、同時に目にする2つの情報が、互いに干渉しあうことである。
最初の一行からして僕にはよく意味が分からなかったのですが、読み進めていくと、何とか理解することができました。
要約すると、こういうことです。
たとえば今から示す文字が、何色で示されているかを判断してみてください。
男
正解 「黄」。
兄
正解 「緑」。
ここまではよろしいでしょうか?
それでは、次の文字に関しても、同じように文字の色を判断してください。
青
↑ 正解 「赤」。
黄
↑ 正解 「紫」。
いかがでしたか?
恐らく、最初の2つよりも時間がかかったのではないかと思います。
青や黄などの文字情報が色の判別のジャマをしたわけですね。
このように、一つの情報が他の情報の認識をジャマすることが、「ストループ効果」だそうです。
…さて、ここまでで終われば、本当に良かったのですが。
その後に、そのストループ効果の項は、こう続きました。
さて、以上のような「色」に関すること以外でも、ストループ効果は起こりえる。
それこそが、「絵」と「文字」の間の干渉である。
「絵」と「文字」?
書かれている文字が、絵の認識をジャマするということでしょうか。
僕は不思議に思いながら、次のページをめくりました。
するとそこには、僕の想像をはるかに超えたモノが、掲載されていたのです。
みなさん、覚悟はいいですか?
色々な意味でシュールでした。
この、明らかに文字を打ち間違えた動物ビスケットみたいな絵が、ここまで堂々と心理学の教科書にのっているという事実。
僕はあまりの衝撃に、しばし時を忘れて見つめてしまいました。
…こんなので良いのなら、僕でも作れる。
そう思い始めると止まりません。
僕はすぐに上の絵をパソコンに取り込んで、ちょっと加工を始めました。
そしてできあがったのが、これからみなさんにお見せする絵です。
…みなさん、よろしいでしょうか。
それでは、この絵の動物は、何でしょうか?
正解 『ネコ』。
この絵の動物は、何でしょうか?
正解 『ネコ』。
この絵の動物は、何でしょうか?
正解 『ネコ』。
ストループ効果、恐るべしです。
……………。
色々な意味で自分の人生をムダにした気がしました。
そして僕が急いで、あと残り200ページの本を再び読み始めたのは、言うまでもありません。
完