小説「胸をもむたびに、お金がもらえる仕事があればいいのに。~バスト・ワーク」最終話

「胸をもむたびに、お金をもらえる仕事が、あればいいのに。」

そんな言葉をつぶやき、彼女の胸を何度ももんだ、次の日…。
僕の口座は、5000円ほど増えていた。

それから僕は、彼女の胸を、何度も何度ももんだ。

しかし…。
胸とは裏腹に、二人の関係は、どんどん固くなり…。

そして、彼女は僕のもとから、去ってしまった。
 
「バスト・ワーク」最終話です!

あらためましてこんばんは。ゆうきゆうです。

まず、ゆうメンタルクリニックで連載されている「マンガで分かる心療内科」の第2巻が発売しました!

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のマンガの他、書き下ろしも大量に!

本屋さんで見かけたら、裏表紙だけでも見てみてくださいね。

さらに、本日はもう一冊、マンガをご紹介。

その名も「角刈りすずめ」。
 

B.B.Joker
殺し屋さん
4ジゲン

などのギャグマンガの原作もつとめた一條マサヒデ先生の最新刊です。

今回は「麻雀」が題材なんですが。

正直、麻雀のことを知らなくても楽しめます。
というか作者さんもルール分かってません。間違いなく。

たとえば一般的な「麻雀パイ」というのは、誰もが知ってるとは思いますが。
(パイだけカタカナにすることに意味はまったくあります)

このマンガでは、たとえば

「麻雀パイが球だったら?」
「麻雀パイが人間より大きかったら?」
「麻雀パイが本物の赤ちゃんだったら?」
「麻雀パイがハムスターだったら?」
「スカイダイビングをしながら麻雀をしたら?」

などなど、さまざまな状況での変態麻雀を行っています。

麻雀という皮をかぶった変態マンガです。いい意味で。

後悔はさせないかと思いますので、よろしければぜひ。

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それはそれとして今夜のセクシー心理学は、前回の続きをお届けいたします。
 
第一回

第二回

◆ バスト・ワーク ここまでのあらすじ

僕の名前は、鈴木ケイ。
25才のフリーターだ。

どんな仕事も長続きしない僕は、恋人であるマユの前で、つい、つぶやいた。

「胸をもむたびに、お金をもらえる仕事が、あればいいのに。」

そして彼女の胸を何度ももんだ、次の日…。

僕の口座は、5000円ほど増えていた。

それから僕は、彼女の胸を、何度も何度ももんだ。

しかし…。
胸とは裏腹に、二人の関係は、どんどん固くなり…。

そして、彼女は僕のもとから、去ってしまった。

◆ バスト・ワーク 最終話

もう、彼女の胸が、もめなくなる。

そのことが、僕の気持ちに強くのしかかってきた。

そう…。
これは僕の、唯一の仕事だったのだ。

これでは僕は無収乳…。いや、無収入になってしまう。

もう、手はないのか。
僕は生きていくことはできないのか。

今さら、普通の仕事に就く…?

何の夢も、何の希望も、何の胸もない、仕事に就く…?

そんなことが、僕にできるのか?
正直、自信はない。

決心がつかないまま。
そして、何の収入もないまま、それから時間が過ぎた。

一度上げた生活レベルを落とすのは難しい。
1ヶ月もすると、僕の貯金は、再び底をついた。

◆ 

マズい。
このままだと、以前とまったく同じだ。

僕は必死に考える。

金。胸。金。胸。金。胸。

「ね」で韻を踏みながら、二つの言葉が頭を飛来する。

いや…。
本当に、手はないのだろうか。

胸をもめば、金が振り込まれる。

であれば…!

僕はひらめきを得る。

そして、すぐに自分の胸をもんだ。
迷いはない。
いや、ちょっとだけあったけども、覚悟を決めた。

自然に両手を当てるとなると、やはりクロスすることになる。
そのまま、何度も手を動かす。

「ふっ…。ふっ…。ふっ…。ふっ…」

人に見られたら間違いなく変態だ。
いや、誰に見られなくても変態だ。

考えないようにしながら、何度も何度も繰り返す。

20回ほどもんだところで、根を上げそうになった。

精神的なダメージはもちろんだが、肉体的な疲労感も強い。
もむ方の筋肉疲労とは比較にならない。

思えばマッサージですら、やり過ぎると「もみ返し」があるのだ。
凝ってもいない肉体部分を何度ももまれるのは、それ以上の苦痛に違いない。

そうか…。
彼女は、こんな気持ちだったのか。

今さらに気がつく。

自分で言うのもナンだが…。
もしかして、「好きな相手が喜んでくれている」ということで、肉体疲労のマイナスを補っていてくれていたのかもしれない。

結局その晩は、100回もんだところで、肉体・精神的にギブアップとなった。

次の日。
僕は再び銀行に走る。

100回なら、×50円で、5000円になるはずだ。

それなら、数日は大丈夫かもしれない。

しかし。

振り込みは、行われていなかった。

◆ 

自分でもむのは、ダメなのだろうか。
他人ではないと、お金が支払われないのだろうか。

そうなると、誰か揉ませてくれる人間を探す必要がある。

しかし街を歩いていきなり「もませてくれませんか?」では、即通報だろう。

となると、知り合いを当たるしかない。
しかし…。それでも、女の子はもちろん、男友達ですら断るだろう。

いや、間違いなく、男の方が危険かもしれない。

「あのさ…。胸、もませてくれるかな…?」

逆に自分が男に言われたら、瞬時に逃げる。

ダメだ。
袋小路に入ってしまった。

僕は考えながら、夜の繁華街を歩いていた。

◆ 

「お兄さん! 今日はお遊びの方、いかがですか!?」

客引きが声を掛けてくる。

「えっ…」

見ると、スーツ姿の茶髪の男性が立っていた。

「今日はたったの5000円!」

「い、いや…」

「何回もんでも5000円!」

「えっ……」

その言葉に少しだけ足が止まる。

「あ、興味あります? ホラ! こんなコもいるんですよ!」

すぐ横に、店の女性が立っている。
きらびやかな、露出の高いドレスを着て、胸元も大きく開いていた。

「ね? いかがですか?」

「う、うーん…。い、いや…」

そう思いながらも、僕は考えた。
こういう女性に、もませてもらえば…。

僕は瞬時に計算をする。

頑張れば、100回くらいもめるのだろうか。
そうなると5000円…?

いや、でもここの料金が5000円なら、プラマイ0に…。

じゃあ、頑張って200回もめば…。

い、いや。
いや、でも…。

必死に計算をしている僕の手に、突然にその女性の手が触れる。

「!?」

「うふふっ…」

そのまま僕の両手を握り、彼女自身の胸に当てた。

「えっ…!?」

そして、そのまま僕の両手を動かし、自分の胸を、もませた。

「ちょっ…!」

「あははっ。体験サービス♪」

彼女はにこやかに笑う。

1回、2回…。
ふわふわっと手が動かされる。

………そうだ。
これが、女性の胸だ。

やわらかく、あたたかく、僕の手で包み込みながらも、同時に包み込まれるような…。

そして、彼女の顔は…。

「………!」

「…? ほ、ほら、おにーさん! いかがですか? サービスまで受けたんですから!」

「あっ!?」

僕は次の瞬間、走りだしていた。

違う。

違ったんだ。

◆ 

次の日、銀行の口座を見る。
残額は、まったく変化していなかった。

そうだ。
今やっと、気づいた。

最初の晩。
僕がマユとかわした会話を、思い出した。

「でも仕事となると、お金を払う人がいるんだよね。誰が払うんだろう…?」

「神様とか? 人生を楽しんでることのご褒美、みたいな」

そうだ。
「楽しんでる」ことが、大前提だった。

驚くほどシンプルだ。

胸をもみ、そして楽しみ、喜び…。
僕自身が、幸せを感じる。

そこに、収入が発生していた。

じゃあ僕は…。
自分で、自分の胸を触って、幸せだったか?

ノーだ。

お店のお姉さんの胸をもんで、幸せだったか?

ノーだ…とは完全に言い切れない。

でも。
足りないものが、あった。

◆ 

僕は、ただ胸があったから良かったんじゃ、なかったんだ。

彼女の笑顔。
あたたかな表情。

それを見ながら触る胸だからこそ、幸せを感じることができたんだ。

胸だけを見て、そこをハッキリと認識していなかった。

忘れていた。
そのときはいつも、彼女が、にこやかに微笑んでいてくれたことを。
ただ静かに、そこにいてくれたことを。

それがあってはじめて、僕は安らぎながら、胸を触ることができたんだ。

◆ 

僕は、それから仕事を始めた。
小さな製造会社だ。

給料は安いし、仕事も大変だ。
やりたかった仕事というわけでもない。

でも…。
それはもう、関係なかった。

合ってる、合ってないなんて、どうでもいいんだ。

どんな仕事でもいい。
ただ始め、進み続けることが大切なんだ。
その中で、色々と見つかるものもあるだろう。

仕事をし、お金を稼ぎ…。
そして何より僕が、一人の人間として自立する。
そして彼女のことを守れる人間になる。

その上で…。
彼女の笑顔を見ながら…。

◆ 

それから、一年後。
僕はマユを呼び出した。

来てくれないかもしれない…。
僕は不安に思う。

しかし。
彼女は、その場に現れた。

僕は思わず言う。

「ひ、久しぶり…」

「………」

彼女は答えない。

「あ、あ…」

僕は言葉を絞り出す。

「あ…。あのときは、本当にごめん…」

「………」

マユはただ僕のことを見つめる。

「あれから、仕事を見つけたんだ…。小さな会社だけど…。うまく…続いてる…」

「えっ…」

「………。今はまだ何もできないけど…。もっと仕事を覚えて…。もっと頑張って行こうと思う…。そうしなきゃ…。いや、そうしたいんだ…」

「そうしたい…?」

「………」

「………」

しばらくの沈黙が走る。

言わないと。
この言葉だけは、言わなければいけない。

「僕は、一番大切なことが何か、分かったんだ」

「えっ…」

「ぼ、僕は…。君ともう一度、一緒に過ごしたい」

「………!?」

彼女が声を出す。
僕の気持ちが止まらない。

「そ、そして…。もし、もし、かなうなら…」

「………」

断られても、バカにされてもいい。
ただ僕の気持ちを伝えたかった。

「僕は…僕は…」

「………」

 

 

 

 

「君の笑顔を見ながら、胸をもみたい」

 

 

◆ 

「それでは、振り込みは1回50円でよろしいでしょうか?」

「あぁ…。こちらが払う額は、その100倍と聞いたらね…。『彼』のその行為のために、こっちは1回5000円払うわけか」

「いかにお仕事で頑張ってこられても、大変な額になるかもしれませんね」

「高いな…」

「いえいえ。インフレによる貨幣価値の変化、また過去に振り込みを行うという技術料、そのほか手数料もろもろがありますので」

「…分かった」

「ふふっ…。でも、信じていただけるとは思いませんでした。みなさま信用してくれませんもの。『過去の自分への振り込みサービス』なんて」

黒い服に身を包んだ女は笑う。

「………思い当たることが、あるからかな」

「ふふふっ…。みなさん忘れてしまうんですよ。未来の自分から受けた恩なんて」

「私にとっては、それだけ強烈だったからな…。ちなみにその振り込むタイミングなんだが…」

「はい。それはみなさま共通。申し上げた通り、過去に『もっとも幸せを感じたとき』とさせていただいてます。その幸せになった行為の回数に応じて、一回ごとに分割した金額をお支払いさせていただきます」

「あぁ…」

「成功された方ほど、若いころに不遇の時代を送っていることが多いものです。そんなときに、ちょっとだけ幸せを後押ししてあげることで、その時代につぶれてしまうのを避ける効果もありますから」

「………」

「…まぁ、時に金銭のせいで、人生に影響を及ぼす恐れもありますが…。それでも最終的には、みなさま満足した人生を送ることができるようです」

「…あぁ…。確かにその通りだった」

「ふふ…。ちなみにその『幸せな行為』は、お客様の場合、ご一緒になる前の彼女の胸を…」

「あぁ、言わないでいい」

「……ふふっ……」

女は僕の顔を見て、静かに笑う。

「それでは…。今回はご利用、まことにありがとうございました」

 

 

その日の夜。
彼女は、笑いながら言う。

「ちょっと…。もう、いい加減にしてくださいな…。私たち、いくつだと思ってるんですか…?」

「いやいや、年は関係ないだろ? そこに君の胸がある限り」

「もうっ…」

「それに今日は、やっと肩の荷がおりた気分なんだ。記念だよ、記念!」

「き、記念って…。毎日、なんかの名目つけて…! あ、ちょ、こらっ!」

 

マユは、笑ってくれる。

僕のプロポーズへの返事をしてくれたときと、まったく同じ表情で。

僕はそれを見ながら、また、胸をもんだ。

(完)

ここまでおつきあいいただき、本当にありがとうございました。

すべて一本にまとめたものはこちら。
 

長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださって大感謝です!