精神科医ユウの日記 <97%ノンフィクション 3%アレンジ>
モーニング女医。強盗に入られる女医。
これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。

それは、あるクリスマス近辺の冬の朝でした。
僕の携帯に、マヤ先生から、突然に電話が来ました。

マヤ「今すぐ、ジャスト・ナウ!

なぜ急に英語。
その上、「今すぐ」としか言ってないと思いましたが、省略されている部分は
「来い」しかありえないと思いました。



でも、おかしいです。

マヤ先生が、ここまで取り乱した声を発するなんてことは…。

確か、自分で数時間かけて書いたレポートを紛失したときと、医局のカギをな
くしたときと、街にいたネコの肉球をなでなでしていたら、突然にかみつかれ
たときだけだったような…。

うん。まぁ。
そういえば何度もありました。はい。

とはいえ、一応の緊急事態のことは確かです。
僕は心から不安になり、先生のマンションまで直行しました。

ピンポーン。

先生のマンションは、今はやりのオートロック…ということはもちろんなく、
普通に誰でもドアの前まで来られます。

チャイムを鳴らしますが、でも返答はありません。

ユウ「せんせーい?」

僕はドアの向こうに向かって、声を発しました。

しかし、返答はありません。

ユウ「………」

考えているヒマはありません。
僕はノブに手を掛けてみました。

…開いてます。

………どうしよう。

こんなときに黙って入ったら。

マヤ「あんたミドリムシの分際で食物ピラミッドの頂点のこの私の部屋に無言
ではいるなんて許されると思ってるの!?


ユウ「ぎゃあああっ! すみませんすみませんすみません!

………。

一瞬頭の中で地獄絵図が広がりました。

僕はノブから手を離します。

ユウ「………」

このまま、帰った方がいいんだろうか。

ユウ「…でも…」


マヤ「あんた腸内細菌の分際で食物ピラミッドの頂点のこの私に呼ばれて、来
ないなんていい度胸してるじゃない!?


ユウ「あああっ! すみませんごめんなさい申し訳ありません!

………。

どっちにしても、地獄絵図。
迷っていても、仕方ありません。

二者択一で迷ったときは、心理学的にとにかく「小さな幸せがある方を選ぶ」
ことが大切です。


「同じ攻撃をされるなら、マヤ先生の部屋の中の方が良さそう」という単純き
わまりない理由
で、僕は中にはいることを決めました。

ドアを開け、中をのぞき込みます。

ユウ「ま、マヤせんせ~い…?」

すると、です。

フローリングの床には、どんよりと沈んだマヤ先生が、一人で座り込んでいま
した。

ユウ「ど…。どうしたんですか…?」

その言葉に、マヤ先生は言ったのです。

マヤ「私の家に、強盗が入ったの!

え。
強盗て。

ユウ「せ、先生は大丈夫だったんですか!?」

その言葉にマヤ先生は、言葉を落として言いました。

マヤ「ね…」

ユウ「?」

マヤ「寝てたから分からない」

それは本当に強盗だったんですか。

ユウ「あの、すみません。それ以前に聞きたいんですけど」

マヤ「なに?」

ユウ「何が盗られたんですか?」

マヤ「お財布」

ユウ「…あとは?」

マヤ「それだけ」

ユウ「…どこに置いていたんですか?」

マヤ「あの、デスクの上」

その言葉に先生の机を見ました。
デスクというより、限りなく「机」という感じでした。

机の上は乱雑で、何がなくなっても分からない状態としか思えませんでした。

ユウ「…あの、もしかして…」

マヤ「言いたいことは分かるわ」

ユウ「………」

マヤ「机を、あそこまで散らかしたのが、強盗だと思ってるんでしょ?」

いや、論点が違います。
先生の机が普段から散らかっていたのは、医局を見れば察せますし。

マヤ「でも、今回だけは、最初からこうだったの」

はい。今回だけでないことも存じ上げております。

マヤ「実際に私も『なくした』んじゃないかと思って、何度も何度も探したの!


ユウ「………」

マヤ「でも、本当に盗られたのよ! ないの! いくら探しても!」

僕はその話を聞き、しばらく考えました。

ユウ「あの、話を整理すると」

マヤ「ええ。整理しなさい

僕の「フォロー」は、先生にとって「当然の奉仕」と同じ認識です。奴隷が生
まれながらにして主人に尽くすような。


ユウ「まず、昨夜は財布があったんですね?」

マヤ「そうよ」

ユウ「で、先生が寝て、そして起きたら、財布がなくなっていたと」

マヤ「ええ」

ユウ「ってことは…」

マヤ「これはもう100%、強盗のしわざよ!」

確信です。

ユウ「本当にそうだとしても、強盗というより、空き巣という表現の方が正し
くないですか?」

マヤ「だって、私は家にいたもの。空いてない

うん。まぁ。そうなんですけど。

マヤ「なんて言うの、こういうの?」

何て言うんだろう。

マヤ「とれとれ詐欺?

うん。少なくとも詐欺ではないことは確かです。

ユウ「名称は別として、誰かが入ったなら、窓のカギとかって開いてるはずで
すよね? 朝、カギはどうだったんですか?」

マヤ「………開いてた………」

ユウ「えっ! ってことは、誰かがこじ開けたか、何かの道具を使って…」

マヤ「昨日から、カギはかけてなかった」

ユウ「………」

先生、一応はれっきとした若い女性なんですから。

ユウ「何で!? 何で開けっ放しだったんですか!?」

マヤ「…掛け忘れてた…」

ユウ「………」

その態度に微妙に不審に思った僕は、あえて言いました。

ユウ「ほ、本当に?」

マヤ「………」

しばらくの沈黙のあと、先生は言いました。


マヤ「いや………サンタが来るかと思って………


こんなとき、人は何て言えばいいんだろう。

それが現在思い当たる誰かなのか。
もしくは昔の誰かが再び訪ねてくることを期待したのか。
はたまた「幸せ」という意味で使ったのか。

僕にはまったく分かりませんでしたが、それ以上突っ込むのをやめました。

ユウ「…そうですか…。サンタが…」

マヤ「…うん…」

ユウ「でも、別のが来ちゃったんですね

マヤ「そう」

もうほんと、何て言うか本当に。

ユウ「…でも、よくよく考えたら、先生はいたわけですよね? その部屋に」

マヤ「そうだけど」

その瞬間、僕は安堵のため息をつきました。

ユウ「…よ、よかったじゃないですか…」

すると先生は、静かに言ったのです。

マヤ「私の寝相って、すごいらしいの

ユウ「………」

一度先生が夜勤の時にレポートを届けにいったことがあるのですが。仮眠室で
の先生は、「誰かとふたりでセクシーなことをしているのではないか」と思う
くらい、一人でベッドの中で暴れ回っていました。

マヤ「だからたぶん、忍び込んだ後にそれを見て、あわてて盗れるものだけ盗っ
て、逃げていったんだと思う」

心から同感です。

ユウ「…ちなみに、財布の中には、何が入ってたんですか?」

マヤ「現金と、キャッシュカードと、クレジットカードと、ツタヤのカードと、
免許証と…」

ユウ「………」

マヤ「………」

ユウ「止めないと!」

マヤ「あっ!」

ユウ「………」

マヤ「……お願い……」

一瞬ここで「お願い、使われてませんように」と思ったのですが。

マヤ「お願い、かわりにやって

やっぱり、そうでした。

ユウ「どこのカードですか?」

マヤ「えっとね、UFJと、東京三菱だったかな」

なんだろう、この第三者っぷりは。

マヤ「パソコンは大丈夫だったから、ほら」

先生は自信満々、PCを指し示しました。
心から、不幸中の幸いだったと思います。

僕は、とにかくネットでカード会社の電話番号を調べ、そこに電話しました。




さぁ! 果たしてそれらは無事だったのか!?
さらに警察に電話した際に生じた、恐ろしい状況とは!?



まて次回更新!
もちろん今回は早いです!

つづく

<追記>

読者さんの上村さん、さらにさみ~さんからメールいただきました。

-----------------------------------
強盗とか空き巣とか詐欺とかについて
結論からすれば、正しい表現は『忍込み』ですね。
『強盗』は、暴行又は脅迫によって、財物(金や物)を強取(無理矢理取っていく)すること。
『詐欺』は、他人(機械の誤作動は含まれず)を欺罔(騙すこと)して財物を交付させること。
『空き巣』は、留守宅に入り込んで財物を窃取(盗むこと)すること。
『忍込み』は、夜間家人等の就寝時に住宅の屋内に侵入し、金品を盗むもの
『居空き』は、家人等が昼寝、食事等をしているすきに、
     家人等が在宅している住宅の屋内に侵入し、金品を盗むもの
-----------------------------------

なるほど。知りませんでした~!
ということで、やはり『忍込み』が正しいそうです。ややこしい。

というわけで「忍込まれる女医。」ということで。うん。ちょっとセクシー。

メール本当にありがとうございました。


精神科医ユウの日記 <97%ノンフィクション 3%アレンジ>
モーニング女医。強盗に入られる女医。2
これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。

<前回までのあらすじ>

寝ているスキに財布を盗まれた(という)マヤ。
呼ばれたユウは、すぐにカード会社に電話を掛ける。

果たしてカードは無事だったのか?

<本編>

「はい。東京三菱、カード紛失係です」

電話口に向かって、僕は話しました。

ユウ「あの………」

マヤ「………」

ユウ「カードが盗難にあったと思うので、止めてほしいのと、また使われてい
ないか調べてほしいんですけど…」

相手「ご本人様ですか?」

ユウ「いえあの、ゆ、友人で、名前は大和まやという…

その瞬間、先生の眼光が僕の目を捉えました。

マヤ「友人!?

ユウ「………」

マヤ「主人でしょ!?

『人』部分は共通していますが、えらい違いです。

電話口から、声が聞こえました。

相手「あいにくですが、ご本人さまでないと…」

…うん。
なんか僕、今たぶんストーカー男だと思われてますよね。

先生にそう伝えると、こう言いました。

マヤ「ご本人さまは今ショックで、電話に出られないと

ユウ「………」

ていうか自分で言ってください。



と、まぁ。色々ありましたが。
結果的にカードを使われた形跡はなかったようです。一安心でした。

あとUFJカードの電話対応の人はとても優しかったです。
「他にも一緒に紛失されたカードは大丈夫ですか? そちらの連絡先もお教え
できますが…」というような。
またUFJカードは再発行が電話で済みましたが、東京三菱のみ、
「再発行のためには、身分証明と通帳と印鑑を持って銀行まで来ないとダメ」
と言われました。手数料もUFJの2倍しましたし。

それを聞いたときのマヤ先生の◆◆のような形相は忘れられません。

みなさんもカードを作るときはぜひUFJで。
なんかCMみたいになってますが。


いずれにしても、一段落したキャッシュ・クレジットカード止め作業。

しかし、です。
話はこれで終わりません。

マヤ「警察にも言わないと

ユウ「………」

マヤ「電話して

やっぱり。

僕は無言で、携帯に手を掛けました。そして110を回します。

110番に掛けたの、生まれて2度目です。
一回目は、もちろんマヤ先生が脅迫メールを受けた(と本人が思いこんだ)と
き。


なんか、本当に事件に巻き込まれたとき、オオカミ少年みたいに扱われたらど
うしよう。

「またあいつか! シカトだ!」みたいな。

色々とやるせない気分になりつつ、相手が出ます。

相手「はい」

ユウ「あの…。どうも空き巣に入られたようなんですが…」

相手「はい、どんな状況ですか?」

ユウ「えっと、昨夜に置かれていた財布が、朝起きると消えていて

相手「………」

ユウ「………」

相手「他になくなったものは?

ユウ「ありません

相手「………」

ユウ「………」

相手「もう一度状況を、聞かせてもらえますでしょうか

ユウ「…ですので置かれていた財布が…

なんか、「それ本当に盗まれたの? 単にどっかにしまっちゃったんじゃない
の?」という「言いたくても言えないオーラ」が、相手の丁寧な言葉のはしばし
から感じられました。


ここで僕も思いました。
ていうか、本当に「窃盗である証拠」がない。



確かに「ないことが証拠」ではありますが、それも「勘違い」のひと言で済ま
すこともできます。


いえ、マヤ先生を目の前にしてその言葉で済むわけがないのは重々承知してい
ますが、僕にはその特殊防御スキルはありません。


ピンチです。


ユウ「あの…」

どうしよう。
そう思っていると、マヤ先生は言いました。

マヤ「そういえば…。葉っぱが落ちてた…

え。

マヤ「ほら、デスクのそばの床。葉っぱが落ちてない?」

僕はその言葉にそこを見ると、確かに数枚の落ち葉の切れ端がありました。

ユウ「あ、はい…」

マヤ「あんなの、見たことないもの。それに普通に生活していて、クツも脱ぐ
し、コートだって別の部屋のローブに掛けるし…。このデスクの近くに、落ち
葉が落ちるわけないのよ」

ユウ「………」

そういえば、マンションのテラスの外には、庭から生えている大きな木があり
ます。その木の葉が、数枚テラスの床に落ちていました。

もし誰がクツのまま入ってきたなら、確かにその可能性はあります。

ユウ「あの、落ち葉がですね!」

相手「落ち葉、ですか?」

なんだか、探偵になった気分でした。
その推理で説得しているのが、110番のお巡りさんという点が、何より情けな
いとは思いましたが。



そして数分後。
何とか納得してもらったあと、やっと相手はこう言ってくれました。

相手「分かりました。窃盗と見て、警察官をそちらに向かわせますので」

心から良かった。

相手「ご住所を」

ユウ「えっと、先生の住所って…」

すると先生は僕に向かって言いました。

マヤ「ここで六本木ヒルズとか言ったら、どうなるだろう

来られなくなるだけです。

ひとときの優越感と共に、色々なものを犠牲にすると思います。

僕は心からそうツッコミながら、正しい住所を聞き、そのまま伝えました。

相手「分かりました。では数分で、警察官が行くと思います」

ユウ「あ、はい…」

そして電話を切ろうとすると、マヤ先生が叫びました。

マヤ「待って!

ユウ「は?」

マヤ「目立つのはイヤ! アレでしょ!? ウーウーサイレン鳴らして、パト
カーが来るんでしょ? 私のクイーンのイメージが、ガタ落ちじゃない!


いや、クイーンというより女王ですよね。
日本語か英語かの違いで、ものすごく違いますよね。

それにイメージが女王の時点で、それ以上に落ちる場所は

そう思いましたが、思うだけでも危険な感じがしたので、その思いも飲み込み
ました。


ユウ「でも、電話もう切れちゃいましたし…」

マヤ「うーーーーー! どうしてくれるのよ!」

いや、どうもこうも。



そして、その3分後。
下の道路に、ちりりんと音を立てて、微妙によろけた運転の自転車が止まりま
した。


そこには、警察官が乗ってました。

ユウ「………」

マヤ「………」

ユウ「あれじゃないですか…?」

マヤ「………」

すると先生は、静かに見つめながら、言いました。

マヤ「もうちょっと目立ってほしかったかもしれないわ…


微妙に同感です。



さぁっ!
到着した警官に、マヤが発してしまったひと言とは!?

待て、次回更新!


精神科医ユウの日記 <97%ノンフィクション 3%アレンジ>
モーニング女医。強盗に入られる女医。3
これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。

<前回までのあらすじ>

泥棒に入られたマヤ。
そこに、現場検証のため、警察官が到着した。

…どうなる!?

<本編>

僕とマヤ先生は、到着した警察官を、マンションのベランダから眺めていました。

すると。

その30代くらいの警察官は、マンションの下で、うろうろし始めました。
どう考えても、家が分からなくて迷っているようでした。

マヤ「………」
ユウ「………」

マヤ「チェンジしていい?

無理ですよ。

結局しかたなく、僕が下まで呼びに行くことになりました。
案の定です。

するとその警察官は、無線に手を掛けて、そちらに話しました。

警察官「あー、こちら◎◎。マルガイ(○+被害者の意味でしょうか)の大和
まやさんと接触


どう考えても、僕は大和まやさんじゃないですよね。
僕の心の電波が無線先に届くことを期待しながら、ただそう念じていました。

ユウ「あの、部屋はこっちです」

警察官「あ、はい」

そして部屋まで連れて行くと、マヤ先生は出迎えました。

マヤ「ようこそ

先生は先ほどとはまったく違い、白のワンピースブラウス、紺のミニスカートに着替え
ていました。

(訂正しました。メールくださった文美加さん、ありがとうございました。
ワンピース+ミニスカートって、ものすごい服装です。自分のワンピース願望が
出たのかもしれません。)


どんなに「チェンジ」といっても、初対面の男性の前でのモードなのか、その
詳細は定かではありません。

いずれにしても、警察の人が「ようこそ」という言葉で被害者宅に招き入れら
れることって、普通はない
と思います。

警察官「あの…。あなたが大和さん?」

マヤ「はい」

警察官「中、見させてもらっていいですか?」

マヤ「散らかってますけど…

ていうか片づけちゃダメですよね。
それ以前に、心から「気にしてる場合ですか」ですよね。

そして警察官は中に入り、現場の状況を調べ始めました。

警察官「どんな状態でしたか?」

ユウ「あ、はい…」

そして僕からしばらく説明した後、警察官は言いました。

警察官「なるほど…」

マヤ「はい」

警察官「…でも、広い部屋ですねぇ

マヤ「あ、はい」

警察官「家賃っておいくらですか?

それ、たぶん関係ないですよね。
僕は心からそう思いました。

警察官「で、サイフに入っていたものは?」

マヤ「えっと、クレジットカードと、キャッシュカードと…」

警察官「はい」

マヤ「あと、ツタヤのレンタルカードです」

警察官「ツタヤのポイントカードですね」

マヤ先生はそれを聞いて訂正しました。

マヤ「いえ、レンタルカードです」

警察官「はい。ツタヤの、ポイントカードと…」

そして彼は、メモ帳に「ツタヤ ポイントカード」と書きました。

この人は、「ポイントカード」という言葉に、ものすごい思い入れがあるので
しょうか。

なんか大したことではないのですが、そのエピソードが妙に記憶に残っていま
す。


警察官「現金はいくら入っていたんですか?」

マヤ「………」

ユウ「…いくら、ですか?」

マヤ「ドル換算すると

しなくていいです。
僕は自分の耳を疑いました。

警察官「……ドルが入ってたんですか?」

マヤ「いえ、日本円ですが

ですよね。ですよね。

マヤ「日本円で話すと、くやしさがものすごくリアルなので

そんな理由で。

警察官「いえ、でもとりあえず日本円で

マヤ「………はい」

すると先生は言いました。

マヤ「10000円札が、○枚

警察官「はい」

マヤ「5000円札が、□枚。1000円札が、△枚

警察官「…はい…」

マヤ「500円玉が×枚、100円玉が◇枚、10円玉が…


なんて細部まで。

僕はそれを聞いたとき、マヤ先生の盗まれた恨みの深さを感じました。

警察官「…詳細まで、ありがとうございます」

うん。いえ、お礼はいらないと思いますよ。

警察官「あと、サイフは、いくらくらいの…」

マヤ「はいっ! これはパリで買って、◇◇◇◇◇円の…!

警察官「はい。ただまぁ、使って少しも経つと、価値は1000円くらいになる
で…」

マヤ「………」


じゃあ聞かないでください。
僕は、マヤ先生の気持ちを代弁するかのように、静かに心の中で思いました。



そしてすべての検証が終わると、警察官はクツを履きながら、言いました。

警察官「…まぁ、出てくるのは、期待しないでください…」

マヤ「…はい…」


マヤ先生は、さびしそうな背中をして、警察官を見送りました。

ユウ「せ、先生…」

すると先生は、手を振るわせながら言いました。

マヤ「この私が、サイフを盗まれるなんて…」

ユウ「……」

マヤ「穴があったら…

ユウ「せ、先生、そこまで自分を責め…」

マヤ「埋めてやりたいわ。泥棒

ユウ「………」

マヤ先生は、変わらずマヤ先生であることを確認して、ちょっと安心しました。



しかし、です。

この事件に、ちょっとした急展開が起こったのです。


マヤ先生ではなく、僕の方に。


さぁっ! それはいったい何なのか!?


精神科医ユウの日記 <97%ノンフィクション 3%アレンジ>
モーニング女医。
         ~強盗に入られる女医。最終話
これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。

<前回までのあらすじ>

泥棒に入られたマヤ。
警察官の現場検証を終え、マヤは強くショックを感じていた。

しかし最後に起こった、奇跡の逆転劇とは!?


<本編>


その事件の、数日後のことです。
僕とマヤ先生は、日比谷駅の近くを歩いていました。

マヤ「サイフが、出てきたんだって…

ユウ「えっ! 良かったじゃないですか!」

マヤ「でもね…

先生の話を聞くと、確かにサイフは出てきたようです。
最寄りの警察に、「落とし物」として届けられたとか。


しかし現金は抜き取られ、入っていたのはカードとサイフだけだったそうです。


マヤ「おそらく、盗んだ人間が、足がつくのを恐れて、現金以外は捨てたのね」


ユウ「………」

マヤ「まぁ、カードは結局再発行したから、あまり関係ないけど…」

ユウ「はい。そうすると、実質的な被害は、現金だけということでしょうか」

マヤ「そう、なるわね…」

ユウ「そうですか…」

マヤ「まぁ、今日はそのことは忘れて、楽しみましょう!」

ユウ「あ、はい!」


その日は、講談社の忘年会でした。

僕とマヤ先生は、セクシーサトラレ学の関係で(強引に)呼んで頂いたのです。
去年は僕一人で参加しましたが、今年はその様子を知ったマヤ先生が、
一緒について来来てくださったのです。

会場は、去年と同じ帝国ホテル。
恐ろしいほどの人数と豪華な内装、そしてぜいたくな料理が並んでいました。


マヤ「あぁっ! これでこそ人生の春!


マヤ先生は大喜びで、食事を食べたり、お酒を飲んだりしています。

僕も、結果的にそれがマヤ先生の慰みになれば…と思いながら、それを見てい
ました。


事件は、そのパーティが終わりにさしかかったとき、起こりました。




当選番号は、1532番です!





マヤ「…ユウ先生、何番?」

ユウ「1…5…32番です…」

マヤ「あ、当たってるじゃない!

忘年会の中で行われたくじ引きで、何と偶然にも、僕の番号が当選したのです!

「当選賞品は、PSPです!

えーーーー!

あの品薄で手に入らない、PSPが!

僕は大喜びで壇上にいきました。

確か司会をしていたグラビアアイドルの熊田曜子が握手をしてくれたのですが、
そのことをほとんど覚えていないほどの喜びでした。



やったあ!


<大喜びのユウ>



すると、マヤ先生は言いました。


マヤ「すごいじゃない! ユウ先生!」

ユウ「…は、はいっ! こんなこと、信じられません!


マヤ「泥棒に入られた私のために、お見舞いとしてこんなのを当ててくれるな
んて!


ユウ「………」



この事態の方が、信じられません。


そして先生は、僕の返答を待つまでもなく、鵜飼いが鵜のとった魚を取るかの
ような自然さで、PSPを手に持ちました。



<大喜びのマヤ先生>




ユウ「………」



マヤ「これって品薄で、オークションとかで○万円とかするんでしょ? じゃ、
ほとんど私の盗まれた額とプラマイ0じゃない!」


僕は、マイナスがすごいことになってると思います。


マヤ「あー、神様って本当に見てるのねぇ」

神様は、少なくとも僕のことは見落としてると思いました。



そして、さらに後日。

マヤ先生が、ニヤニヤと笑いながら、僕に電話をしてくれました。

マヤ「あのねあのね! リオに教えてもらったんだけど、保険が効くのよ!」

ユウ「は?」

マヤ「入居の時に強制的に加入させられた、火災保険! あれに、盗難保険も
含まれてる
んだって!」

ユウ「…ということは…」


マヤ「うん! 盗まれたお金、全額戻ってくるみたい!

ユウ「…よ、良かったじゃないですか!」

マヤ「うん! 本当に良かった!」

ユウ「だ、だったら…」

マヤ「ほんと、良かったーーー!



そのまま、電話は切れました。

最後のセリフは、「良かった」でした。


僕は、「だったらPSP、返してください」と言いたくても言えないまま、そ
の言葉を胸にしまいました。


みなさま、とにかく戸締まりにはお気をつけください。


本人が、そして時に周りの人間が不幸になることになります。

(完)

ここまでおつきあいくださり、本当にありがとうございました。

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