精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/08/31
                     ~指であそぶ女医。1

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女たちは私のことを「貧弱な坊や」と馬鹿にした。





私はすぐにブルワーカーを使い始めた。




効果はすぐに現れた。




今では誰もが私をたくましい男性と認めてくれる。










ありえない。



今までいったい何人の男性がこの広告につられて、

ブルワーカーを3日で押し入れの中にしまったことでしょう。






でも、人間というのは、悲しいものです。



少しでも望みがあると、「もしかして今回は…!?」と期待して、つい同じ行動を
何度も繰り返してしまいます。






これは、そんな男のドラマです。






みなさんは、「親指シフト」というものをご存じでしょうか。


パソコンがここまで普及する前、人はみな「ワープロ」を使って文書を作っていました。


その際に富士通が開発したOASYSというワープロに搭載されていた入力方式。

それこそが、「親指シフト」です。

それはまさに夢の入力方式。


「親指左」と「親指右」という2つのキーを使い、そしてそれぞれのキーとの
組み合わせによって、より少ないキー入力によって日本語入力を可能にする方式です。


面倒な説明は省きますが、これによってほとんどすべての文字が
「1ストローク」で済むという、まさに夢のような入力方式。

そのため、従来のローマ字やカナ入力の、約1.7倍の速度で入力することが可能になるのです。


<参考図>

  親指シフトキーボード JISキーボード
かな/英字配置 3段 4段
かな/英字キー数 30キー 48キー
シフト位置 中央(親指キー) 両サイド(小指シフト)
    かな入力 ローマ字入力
打鍵に必要なストローク数 清音 1ストローク 1ストローク 1or2ストローク
濁音 1ストローク 2ストローク 2or3ストローク
半濁音 1ストローク 2ストローク 2or3ストローク
拗音・促音 1ストローク 2ストローク 1or2ストローク
句読点 1ストローク 2ストローク 1ストローク
数字 かなモードのまま入力可能 英数モードへの切替が必要 かなモードのまま入力可能

実際、その時代の「ワープロコンテスト」は、上位すべてを「親指シフト入力」の人間が独占した

ということからも、そのすごさは伺われます。



でも、もちろんこれはワープロだけの機能。

当然ですが、現在流通しているPCに、「親指キー」なんて存在しません。
ですのでまさに「幻の入力方法」でした。

実際に僕もその存在は知っていたのですが、それを使うことは不可能だと思っていました。


しかしつい最近、「Windowsでも、擬似的に親指シフト入力ができるソフト」というものを発見したのです。




ソフトの名前は「親指ひゅんQ」



名前からしてやる気がなさそうですが、


僕は非常に興味を引かれました。



実際に僕のPCはThinkPadで、スペースキーが短く、すぐ右隣に変換キーがあるため、
この二つを「親指左」「親指右」にあてはめることができます。




これならできる。



これなら、やれる。






その瞬間、僕の頭に、
ブルワーカーの広告が浮かびました。




これさえあれば、勝てるかもしれない。




誰に!?



もちろんそれは、言うまでもありません。



いったいユウに何が起こったのか!?



精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/09/01
                     ~指であそぶ女医。2

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<前回までのあらすじ>

ユウは、カナ入力よりもローマ字入力よりもさらに劇的に早く入力できる
「親指シフト」方式を、PC上で可能にする方法を発見した。

喜ぶユウ。というのも…!?


<本編>


それは、この親指シフトを発見する、つい2日前のことでした。

僕はいつものように、マヤ先生に缶コーヒーを買いに行かされていました。

マヤ「遅いっ!」

ユウ「すみませんっ!」

マヤ「もう何やらせても遅いのね…。こんなんじゃいつまでたっても一人前になれないでしょう?」



一人前って、パシリの一人前ということなのでしょうか。



僕は静かにそう思いました。


このままだと、僕はいつまでたっても、マヤ先生に頭が上がらない。

いえ、上がらないどころか、上から激しく踏みつけられてる。









………。



今一瞬、

「それもいいかも」





とか思っちゃいました。




こんな自分が好きですが、
でもこのままじゃいけない気がします。



いつか、いつかマヤ先生に勝たないと。

ユウ「マ、マヤ先生…」

マヤ「………なーに?」





マヤ先生は静かにほほえんでいますが、僕の挙動から、
「こいつ何かたくらんでるわね」
という雰囲気を感じたようでした。


マヤ「なぁに~?





ユウ「…………」

マヤ「……………」






ユウ「今度買ってくるのは、アイスココアでいいですか






心から、

こんな自分が大好きです。



マヤ「そ。じゃあ今度はそれでお願いね」



ユウ「…………」

マヤ「…………」



そのときです。

マヤ先生はにこやかに言ったのです。

マヤ「でも、いつも私から頼むのも悪いわね」

ユウ「…え?」

マヤ「たまには、私が言うこと聞いてあげるわよ」

ユウ「はっ!?」

マヤ「だからね、私が、あなたの、言うことを、聞いてあげると、言ってるの


ユウ「…………」



これは、どんな新種の罠でしょうか。




ユウ「まままま、マジですか!?」



マヤ「うん。何かの勝負をして、私に勝ったらね





やっぱり、そんな話ですよね。


マヤ「でも逆に、私が勝ったら、ユウ先生に何でもいうことを聞いてもらうから」

やっぱり、そういう展開ですよね。




マヤ「まぁ、ユウ先生が私に勝てるわけないから、勝負するだけムダかなぁ~?」







出ました。得意の挑発です。



まぁ、今から考えると、どう考えても「すべてが挑発」だったわけなのですが。



でも僕は思いました。


これこそが。

これこそが、僕にとって千載一遇のチャンスかもしれない。

どんなスタートであっても、
僕が勝ちさえすれば、今のカラを壊すことができる。

そんな気がしたのです。





僕は、ついに言ってしまいました。



ユウ「やりますよ




さぁっ!
そしてユウが選んだ勝負法とは!?

そしてマヤが発した、余裕の言葉とは!?


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/09/02
                     ~指であそぶ女医。3

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<前回までのあらすじ>

ユウは、カナ入力よりもローマ字入力よりもさらに劇的に早く入力できる
「親指シフト」方式を、PC上で可能にする方法を発見した。

その2日前、ユウがマヤに持ちかけられた勝負とは!?


<本編>

ユウ「やりますよ


僕のその言葉に、マヤ先生は静かにほほえみました。

マヤ「あはっ! そういうと思った! じゃあ何で勝負する?
 何でもいいよ。ユウ先生の得意なもので」


ユウ「…………」



マヤ「早撃ちでも、あやとりでも、昼寝の早さでも







僕は、のび太くんですか。




マヤ「指相撲でも、カメの散歩でも、クラゲのモノマネでも







なんか、どんどん情けない方向になっていってます。




待てよ。ユウ。


どうせだったら、本当に僕の得意なもので、いいんじゃないだろうか。




それこそ………。














なにも、思いつきません。





一瞬、本気で「カメの散歩」とか思いつきましたが、
あまりに自分が哀れなのでやめました。





マヤ「ほらほら、ユウ先生の一番得意なものでいいのよ?
それだったら、もしかして勝てるかもしれないし、ねぇ」



……………。




こんなことを言われて、いいのか、ユウ。


僕は静かにそう思いました。



もしこのまま、僕の得意なもので勝負して、そして当然のごとく僕が勝っても、
決してマヤ先生に勝ったことにはならない。


マヤ先生を完膚無きまでに打ち砕くためには、


マヤ先生の得意なもので勝たないといけないんだ。





ていうかそれ以上に、


僕の得意なもので負ける可能性が高そうで、
そのときは僕が完膚無きまでに打ち砕かれそうだと
思ったのは内緒です。






僕は、そこまで考えると、意を決して言いました。




ユウ「マヤ先生の一番得意なもので、勝負します



それを聞くと、マヤ先生は不敵な笑みを浮かべました。


マヤ「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

ユウ「あははははははははははははははははははは」



マヤ「……………………………」

ユウ「……………………………」






マヤ「あまり調子に乗るんじゃないわよ?



ユウ「すみませんすみませんすみません








なんかこの時点で負けてる気がする。



僕はそう思いながら、静かにツバを飲み込みました。


さぁっ!

勝負の行方はどうなるのか!?


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/09/04
                     ~指であそぶ女医。4

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<前回までのあらすじ>

ユウは、カナ入力よりもローマ字入力よりもさらに劇的に早く入力できる
「親指シフト」方式を、PC上で可能にする方法を発見した。

その2日前、ユウはマヤの挑発に乗ってしまい、つい
「マヤ先生の一番得意なもので勝負します」と言ってしまう。

どうなるユウ!?


<本編>


心臓の鼓動が高まります。

僕は自分の言葉を、強く強く後悔しました。



マヤ「………私の、得意な、ものでねぇ…」


でも、もうこうなったら引くことはできません。
いつのまにか入り込んでしまった、この半強制的な地獄。

目の前にあったはずの退路は、すでにもうふさがれてしまっています。


こんなこと、他にもあった気がします。





歯医者さんで、

「痛かったら手をあげてくださいね」
「分かりました」
「ではいきまーす」
「…あの、痛いです」
はい我慢してくださーい



というときと同じくらい、
やるせない気分です。



マヤ「じゃあねぇ…。何にしようかなぁ…?」

マヤ先生はニヤニヤニコニコとほほえみながら、自分のほほを手で触っています。



僕は必死に考えました。


マヤ先生の得意なもの。
マヤ先生の得意なものって…。















女王?












さすがにこれは勝負できません。



マヤ「じゃあねぇ、三択にしてあげる」


ユウ「…は?」


マヤ「だから、私が得意なものを3つ挙げるから、そのうち好きなのを選んでいいよ」


ユウ「…………」


こういうのを、地獄で仏というのでしょうか。







いえ、この言葉を使ってみたかったから使っただけで、




仏なんて絶対に思ってません。




ていうか僕が成仏しそうです。




マヤ「いいよね?」

ユウ「は、はいっ!」




そうだ。ものは考えようだ。ユウ。


マヤ先生の得意なもので、僕も得意なものだって、あるはずじゃないか。




たとえば………。

たとえば…………。










たとえば………。











……………………。











ともしび

『自分の中に何が隠れているかは
  それを取り出してみようと
   するまで、だれにもわからない』


アーネスト・ヘミングウェイ(作家)










すごく都合のいい名言が
自分の頭に浮かびました。





そうだ。


負けちゃダメだ。

自分の中には、まだ眠っている可能性がある。


マヤ先生の得意なものが、僕にできないはずがない。

絶対に無理なんてことはないんだ………!!



そう思っていると、マヤ先生は静かに言いました。





マヤ「その1。『男を100人縛るレース』











絶対に無理だ。


僕の頭を、激しい絶望が襲いました。



勝負はいったいどうなるのか!?


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モーニング女医。 2003/10/16
                     ~指であそぶ女医。5

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<前回までのあらすじ>

ユウは、カナ入力よりもローマ字入力よりもさらに劇的に早く入力できる
「親指シフト」方式を、PC上で可能にする方法を発見した。

その2日前、ユウはマヤの挑発に乗ってしまい、つい
「マヤ先生の一番得意なもので勝負します」と言ってしまう。

マヤの提案する3つの勝負方法…。残りの2つは!?

<本編>


このままでは、明らかにマズいです。
僕は静かに自分の状況についてかみしめました。


マヤ先生は、そんな僕を見ると、にこやかに言いました。

マヤ「じゃあね、2つめの勝負方法は」

ユウ「………」

マヤ「あやとりで






なんで急に。



あやとり。

実はそれ、僕が唯一得意なものです。

東京タワーからプレアデス星団まで、僕に不可能な技はありません。





秘技「プレアデス星団」
(画像は僕じゃないんですけど)






その瞬間、マヤ先生が、不敵に笑います。

その笑顔からは、
「あなたの得意なものでも、私はやろうと思えば一瞬でマスターできるのよ」

という余裕をありありと感じます。



でも、本当にこれでいいのでしょうか。
僕はしばらく考えてから、言いました。

ユウ「………最後は、何ですか………」

マヤ「は? 最後?」

ユウ「3番目、です…」

マヤ「3番目、ねぇ…」

するとマヤ先生は静かに言いました。



マヤ「まぁ、じゃあ、タイピングとか


最初と最後に得意なものを持ってきて、確実に僕にあやとりを選ばせようとしている。

そんな気持ちが、ひしひしと伝わってきました。


心理学には、セルフ・ハンディキャッピングというものがあります。

無意識に自分にとってわざと不利な状況に追い込むことで、
「負けたときに言い訳になり」「勝ったときは、なおさらその勝利の価値を高め」ようとする、

とても姑息な賢明な心理作用のことです。


もちろん、僕の心の中にその心理が働いたことは否めません。

でもそれ以上に、ここで楽な方に流されたら、確実に今以上にマイナスな方向に
流されてしまう自分が分かっていました。


そう考えた僕は、心の奥から声を絞り出して言ったのです。


ユウ「タ、タイピングで、お願いします」

マヤ「………………」



沈黙が、訪れます。



ユウ「………………」

マヤ「分かってるの? 負けたら、何でも言うことを聞くのよ?


ユウ「は、はい」




マヤ「本気?


ユウ「…はい…」





マヤ「本気と書いて、マジ?

ユウ「は、はい…」




マヤ「本物と書いて、マゾ?







それもある意味、
正解なんですけど。



さぁっ!
どうなるユウの運命!


この後にマヤが起こした、おそるべき行動とは!?




精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/10/19
                     ~指であそぶ女医。6

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<前回までのあらすじ>

ユウはついにマヤに言ってしまう。
「タイピングで勝負します」。

それに対してマヤのとった行動とは…!?


<本編>


マヤ先生は目を丸くして、僕のことを見つめていました。


でも、でもです。

もちろん、勝算がないわけではありません。

現在、ほとんどのメルマガ発行作業は、僕が行っています。
それによって、打ち込みの腕前は確実に上がっているはずです。



すなわちたとえるなら、ウサギとカメ。

どんなに遅いカメでも、ウサギさんがゆっくりと休んでいる間に、ひたすら走ることで、
追い越すことができるかもしれないのです。




僕の自信にあふれる目に気がついたのか、マヤ先生は言いました。

マヤ「ふぅ…」

そして先生は、自分のPCに向かいました。

マヤ「そう…。じゃあ、仕方ないわね」

ユウ「あ、はい…。僕は本気ですから…」

チャチャッ。

ユウ「え?」


マヤ先生の手元で、指先が動きます。

ユウ「な、何してるんですか?」

チャチャチャッ。

再び手元が揺れました。

まさか…。

僕はあわててそのPCの画面をのぞき込みました。








そこには、


あ、はい…。僕は本気ですから…。え? な、何してるんですか?



と書いてありました。


ユウ「これって、まさか…」

するとマヤ先生の手元がまた揺れます。
そして同時に、「これって、まさか。」と、僕の言葉と同じ文字が打ち込まれていきました。


ユウ「………」

マヤ「………」


ユウ「隣の客は、よく柿食う客だ

チャチャチャチャチャッ。

あっという間に同じ言葉が書き込まれていきます。

ユウ「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた

チャチャチャチャチャチャッ。

同じように書き込まれていきます。

ユウ「赤ぱじゃま青ぱじゃじゃ黄ぱじ…ォッ!



舌かみました。



でもマヤ先生は無言で「赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」と打ち込んでいきます。


心底、負けた気分です。


そして画面を見ていると、こんな風に打ち込まれました。


それって早口言葉だから、話す方が大変だと思うんだけど。




その通りでした。

気がつきませんでした。

心から敗北感を味わいました。


でも、負けていられません。


それなら…。

僕は決心して、ある歌を歌い始めました。


ユウ「超超超 いい感じ 超超超超いい感じ
超超超 いい感じ 超超超超いい感じ
超超超 いい感じ 超超超超いい感じ
超超超 いい感じ 超超超超いい感じ




自分でも、何をしてるんだか分かりません。


でも僕がそのとき思いついた限り、それが一番早口の歌だったのです。

僕は自己嫌悪と戦いながら、必死に歌っていました。



しかしそんな僕の恥じらいもよそに、マヤ先生は恐るべき勢いで打ち込みます。

もうここまで来たら、意地です。
続けるしかありません。


ユウ「恋もして~。仕事して~。歴史きざんだ地球~!


僕は昼間から何をやってるんでしょう。



「仕事して~」というより、



お前が仕事しろよ、という感じです。




はたから見ると、
真面目にPCに向かって仕事している女医の後ろで、大声でモーニング娘。を熱唱している男」という図式。



警察を呼ばれても、
仕方ない状況です。






しかしマヤ先生は冷静に打ち込みます。

画面を見ると、こう表示されていました。

恋もして (Woo Baby)
仕事して (Woo Baby)
歴史きざんだ地球

泣いちゃった (Woo Baby)
腹へった (Woo Baby)
Love Revolution 21








Woo Baby。

合いの手まで入ってる。







その瞬間、僕はあらゆる意味での敗北を味わいました。


さぁっ!
どうなるユウの運命!


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/10/24
                     ~指であそぶ女医。7

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<前回までのあらすじ>

ユウはついにマヤに言ってしまう。
「タイピングで勝負します」。

それに対してマヤは、「ユウの発言を完全にPC上に再現する」という
タイピングパフォーマンスを行う。

果たしてユウは!?


<本編>


僕はマヤ先生の手元を、ただ静かに見つめていました。
一言でも発したら、画面上に打ち込まれてしまう。

これはある意味、かなりの緊張になります。



ユウ「ろ、論より…」

マヤ「………」


ユウ「論よりショー・コスギ



すると画面上にもちゃんと

論よりショー・コスギ

と打ち込まれました。





引っかけにも引っかかりません。



ここで僕は気がつきました。
よく見ていると、先生は1文字にほとんど1ストローク(打鍵)しか打っていません。




そんなバカな。
先生はローマ字入力だったはずです。

でも1文字に1打鍵なんて、どう考えても、カナ入力です。

ユウ「先生…。先生って、ローマ字入力じゃなかったんですか?」

するとマヤ先生は、それを打ち込んだ上で、こう書きました。



当然だけど、カナ入力もできるのよ?




………………………。

僕は無言になります。


するとマヤ先生は、こんな風に打ち込みました。


マヤ先生の打鍵速度を見た瞬間、
僕は静かに負けた自分のことを思い描きました。






人の思考まで打ち込まないでください。



さきほど僕は、自分たちのことを、「ウサギとカメ」にたとえました。

でも。


こんなの、絶対にウサギじゃない。



そのとき、僕の頭に、ひとつの童話が浮かびました。


イソップ童話『ジェット機とカメ』。


カメ「よーし、あの山のてっぺんまで競争だぞ、ジェット機さん!」

ジェット機「………」

カメ「よーい、どん!」

その瞬間、ジェット機は音もなく飛び立ち、数秒後にはてっぺんのはるか彼方に飛び去っていました。


そして、その衝撃で砕けたカメの甲羅が、周囲に舞っていました。


めでたし、めでたし。













めでたくない。


僕は自分の頭の中のシュールな妄想童話に、セルフ突っ込みをしてしまいました。



マヤ「じゃあ、勝負は1週間後にしましょうね」

その言葉に現実に引き戻される僕。

マヤ「今回は、何を聞いてもらおうかなぁ~?」

ユウ「…あ、あの…」

僕が言葉を返すまもなく、マヤ先生は医局の外に出て行ってしまいました。








しばらく医局内に立ちつくす僕。

僕は静かにPCに向かって、しゃべりながら打ち込みを始めてみました。

ユウ「こんにちは。僕の名前は、ユウです」


しゃべり終わったとき、画面上には、こう書いてありました。



こんにちあ。ぼくのなめh









負ける。




さぁっ!
風前の灯火も同然のウ!

↑風前の灯火も同然のユウ!

誤植している時点で負けが決定していると思いつつ、二人の勝負の行方は!?


メールで教えてくださったffdq7さん、ELRさん。
本当にありがとうございました。


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/10/28
                     ~指であそぶ女医。8

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<前回までのあらすじ>

ユウはついにマヤに言ってしまう。
「タイピングで勝負します」。

それに対してマヤは、「ユウの発言を完全にPC上に再現する」という
タイピングパフォーマンスを行う。

ジェット機とカメほどの実力の差を見せつけられたユウは!?


<本編>


アスカ「あと大トロ、5つ持ってきてねー!」

板前「あいっ!」

アスカ「あとアワビスペシャルを3人前!」

板前「あいよー!」



なんで僕はこんなところにいるんだろう。



それは、勝負まであと1週間。



「このままでは負ける。」

そう思った僕は、アスカさんのところに聞きに行きました。


アスカさんはマヤ先生との学生時代からの友人。
おそらく何らかのヒントは聞けるはずです。


アスカ「どしたの? ユウくん」

ユウ「あのですね…」


そしてすべてを聞き終わったアスカさんは、にこやかに言いました。


アスカ「任せて」

ユウ「え?」

アスカ「………」

ユウ「………」




アスカ「お寿司、でいいよ





そんな気がしていました。



ユウ「回ってもいいですか」

アスカ「回らない方がいい」

ユウ「そこを何とか」

アスカ「回らない方がいい」


すくなくとも僕の頭はぐるんぐるん回転してきました。



アスカ「あとね、イクラとウニとハマチを3つずつー!」

板前「景気いいね!」

アスカ「今日はお財布がいるからー!」




誰がですか。


僕は静かにそう思いました。

ユウ「で、勝つための秘策を教えて欲しいんですけど…」

アスカ「ユウくん、円周率って知ってる?」


ユウ「は? あの、3.14とかいうヤツですよね…?」

アスカ「3.14」


ユウ「はい、3.14…」


アスカ「3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164 062862089986280348253421170679

ユウ「え!? え!?」


アスカさんは静かに円周率を暗唱していきます。

僕はただその言葉を聞いていました。



アスカ「今ので100ケタ。ちなみに現在のギネス記録は、42195ケタまで暗記している人」

ユウ「え? え?」

アスカ「その人は、現在50000ケタまでチャレンジしてるんだって」

ユウ「………」

アスカ「でもそれも、またいつ破られるか分からないよね?」

ユウ「は、はぁ…」

アスカ「こんな風に、人間の知的能力には明確な限界がないの。時間さえあれば、そしてうまく鍛えれば、いくらでも工夫して、向上させることができるんだよ」

ユウ「は、はい! ということは僕だって…」

アスカ「でもね」

ユウ「は?」


アスカさんは、突然に僕の腕をなで始めました。

ユウ「え!?」

アスカ「肉体には、限界がある」

ユウ「………」

アスカ「特に筋肉は、当然だけど細胞の集まり。短期間に無理に鍛えようとすれば、必ず破綻するの」

ユウ「ということは…」

アスカ「短期間で指先を鍛えようとすると、最悪………」

ユウ「さ、さいあく………?」

アスカ「死ぬかもしれないわ

ユウ「し、死ぬッ!?






………。


いや、それはありえません。


アスカ「まぁ、それはないにしても」

ですよね。


アスカ「いずれにしても、肉体には限界があるんだよ」

ユウ「まぁ、確かに…」


アスカ「さてここで、マヤちゃんの話」

ユウ「は、はい!」

アスカ「日本語ワープロ検定ってあるんだけど」

ユウ「あ、はい…」

アスカ「それの1級が、『1分で70文字』の入力。
単純に文字数だから、もしローマ字入力と考えると、『1分に140打鍵』だよね」

ユウ「は、はい」

アスカ「マヤちゃんは軽く1分に200字打ってたよ



ユウ「………」


アスカ「サンドイッチ食べながら


サンドイッチ伯爵もビックリですね。


アスカ「すなわち今のマヤちゃんが、100メートルを10秒台で走る世界記録の持ち主なら」

ユウ「………」

アスカ「ユウくんは、
 100メートルを30秒かけて走るミジンコ




人間ですらない。


アスカ「その上、途中で網に引っかかってる




なんか障害物競走になってませんか。



ユウ「ということは、絶望的ということでしょうか…」

アスカ「まぁ、お寿司でも食べて元気出しなよ」


ユウ「は、はい…」





アスカ「おじさーん! カッパ巻き一つ!



カッパ巻きですか。



さぁっ!
ユウは本当に勝てないのか!?


そのあとにアスカが伝えた、唯一のヒントとは!?


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/11/08
                     ~指であそぶ女医。9

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<前回までのあらすじ>

ユウはついにマヤに言ってしまう。
「タイピングで勝負します」。

それに対してマヤは、「ユウの発言を完全にPC上に再現する」という
タイピングパフォーマンスを行う。
ジェット機とカメほどの実力の差を見せつけられたユウは!?


<本編>


静かにキュウリの味をもくもくと味わっていると、アスカさんは言いました。

アスカ「でもね…。もしかして一つだけ、勝てる方法があるかもしれないよ」

ユウ「…は!?」


アスカ「それはたとえるなら、100メートル走を」

ユウ「は、はい…」

アスカ「アレをはいて走るみたいな」

ユウ「………アレって、まさか、ローラースケートとかですか?」






アスカ「ううん。ジャンピングシューズ」







コレですか。





ユウ「そ、それって、危なくないですか?」


アスカ「うん。でもドクター中松の理論だと、普通よりも早く走れるみたい

ユウ「………」

アスカ「うまく行けば、ね


ユウ「でも、失敗すると…」


アスカ「よく分かったね。
覚えるのに失敗すると、普通に打つよりも遅くなるよ

ユウ「………」


僕はしばらく考えていました。

でも、迷ってるヒマはありません。
時間は限られているんです。



アスカ「おじさーん! あとタイとハマチとホタテを3つずつー!


勘定的にも、これ以上話を長引かせてるヒマはありません。



僕は言いました。

ユウ「教えて、ください」

アスカ「…分かった…」

ユウ「………」

アスカ「………」


アスカ「その答えは、『親指』よ」

ユウ「親指!?」

アスカ「そう。親指」

ユウ「それって、どういう…」

アスカ「ここから先は、自分で考えて。
その答えも分からないなら、おそらく普通に打った方がいいと思うよ」


ユウ「………」



回転する運命の歯車。
ユウの勝負の行方は!?


精神科医ユウの日記 <70%ノンフィクション 30%ユウの妄想>
モーニング女医。 2003/11/10
                     ~指であそぶ女医。10

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これは、4人のドクターたちの日常を描いた愛と情熱の日記です。たぶん。

<前回までのあらすじ>

ユウはついにマヤに言ってしまう。
「タイピングで勝負します」。

ユウは勝つための唯一の手がかり、「親指」という言葉を元に探し始める。
どうなるユウ!?


<本編>

次の日の夜。

リオ「じゃあ、次はジントニックとマティーニとシーズン・イン・ザ・サンを頼む!」

ユウ「あの、すみません。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか…」

リオ「うん。何だっけ?」

それは池袋のあるカクテルバー。
僕はサイフの中身を見つめながら、リオ先生に対して会話を続けました。

ユウ「それであの、タイピングの『親指』というものは何なのか聞きたいんですけど…」


その言葉に静かにカクテルを手に取るリオ先生。
そして、彼は静かに言いました。


リオ「親指? そんなの、一つしかないだろう?」

ユウ「お、教えてください!」

リオ「ほら」


そう言うと、先生は携帯を出しました。

ユウ「は?」

僕は不思議に思います。

リオ「行くぞ…?」

まさか。
僕がそう思うまもなく、先生は親指で携帯メールを打ち始めました。


リオ「かきくけ……わを……な……た……






絶対に勝てません。


リオ「な?


何に同意を求めてるのかぜんぜん分かりませんでしたが、
僕はとりあえず同意しておきました。



ユウ「あ、はい!」

リオ「早いだろう?






はい、携帯にしては。



リオ「これが早くなると、それだけで女に尊敬されるんだぞ!」


わぁ、いいですねぇ。


リオ「リオサーン、スゴイネー! とか


なんで日本語がカタコトなんですか。



ユウ「その打ち方で、勝てますか…?」


するとリオ先生はにこやかに言いました。


リオ「あぁ。まぁ、

この世に生存している生き物の90%には勝てる。




生き物。



虫とか鳥とか動物だけでも90%超えてると思うんですけど。






ユウ「………」

リオ「………」



ユウ「マヤ先生にも勝てますか?」

リオ「………」

ユウ「………」

リオ「………」

ユウ「………」





リオ「はっはっは。すまないが、今なんと?





やっぱり、言うと思いました。


ユウ「マヤ先生にも、勝てますか?」



リオ「マヤ文明にも、エカテリーナ?




絶対に聞こえてて言ってますよね。



リオ「………」

ユウ「………」

リオ「………」

ユウ「………」



リオ「テポドンって知ってるか?


ユウ「……はい……」


リオ「竹ヤリって知ってるか?




もういいです。

たとえがすごく目に浮かびます。



リオ「そ、それってな…」

ユウ「………」


リオ「テポヤリに竹ドンで立ち向かうようなもんだよな?





先生、言葉が混乱してます。




ていうか。



携帯メールじゃ、竹ヤリどころか、



「つまようじ」だと思います。




リオ「ほ、本当にアスカは、親指で勝てるって言ったのか!?」

ユウ「あ、はい、断言はしてませんでしたけど…」


リオ「………そうなると、考えられることはひとつだけだ」

ユウ「な、なんですか?」



リオ「アスカの親指は」

ユウ「………」

リオ「すごく器用



「器用」で片づけちゃいましたか。



ユウ「分かりました…」

僕はそう思いながら、静かにその場を後にしようとしました。

するとその瞬間、リオ先生は言ったのです。

リオ「待てよ…?」

ユウ「え?」


リオ「それはもしかして、親指シフトのことかも…」

ユウ「親指、シフト?」








さぁ、ついに勝負に向けて回転する運命!

はたして勝者は一体誰なのか!?

勝負編に続く!


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