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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。11/08
               ~ヤ○ザさんと戦う女医。1
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電車内での携帯。

これほど迷惑なものはありません。

勇気のある人なら、注意をするかもしれません。

でも、その相手が、もし………


これは、恐怖の相手に挑んだ、ある勇敢な精神科女医のお話です。




それは、僕とマヤ先生が、出向先の病院に向かっていた時でした。
二人で隣になって座っていると、近くで大声が聞こえました。



「もしもし!?」


明らかに、携帯で話している声です。
あまりの大声に、乗客たちはいっせいにそちらを向きました。
髭を生やした、サラリーマン風の男性です。

マヤ先生は、けだるそうに言いました。

マヤ「何なのよ、あの大声は…」

その男性は、全員の注意が自分に向いているのを知ると、叫びました。

「何見てんだよ、お前ら!」

慌てて乗客たちは目をそらします。
マヤ先生は、舌打ちをしながら言いました。

マヤ「………仕方ないわね…」

まさか!?

僕が思った次の瞬間、マヤ先生は言いました。

マヤ「ほら、注意して









僕がですか。


少しは予想していた展開とはいえ、僕は頭がクラクラしました。



落ち着け。ユウ。

どこかの本にもあったじゃないか。

ポジティブシンキングだ。

今ここで考えられる、一番ポジティブな可能性は何だ?


> マヤ「ほら、注意して」




……



『ほら、チューして』
かもしれないじゃないか。





………








僕、もうダメかもしれません。



マヤ先生は続けます。

マヤ「はやくあの人に、電話をやめるように言うのよ、ユウ先生」







もう、誤解の余地すらありません。


その男性は、服装こそサラリーマンのようですが、顔つきは明らかに、


素人さんじゃないみたいです。

僕は正直に言いました。

ユウ「で、で、でも…。ちょっと怖いですよ…」

マヤ「ナニ言ってるの!? どこからどう見ても……」

マヤ先生はじっと見つめます。

ユウ「………」

マヤ「サラリーマンでしょう!?





今の間、何ですか。

その時に、その男性は大声で話しました。

「本当にいいのかぁ?
 事故にあったり、するかもなぁ」




保険会社かな。


「それとも、沈みてぇのか!!」






あ、潜水艦を造る会社かも。



マヤ「ね?







何がですか。

迷っている僕の肩を、マヤ先生は力を込めてつかみました。

マヤ「はやくぅ……」


まさに前門のトラ後門のオオカミです。


ていうかオオカミ、すでに噛んでます。


僕は、必死に口を開こうとします。
でもどうしても、動くことができません。

しばらくすると、その男性はさらに大声で話し始めました。


あまりのストレスに、気を失いそうになる僕。

するとマヤ先生は、あきらめたように言いました。

マヤ「………分かったわ…。私が言ってあげる…」



あ。



ありがとうございます、先生。






って、



どうしてお礼を言ってるんだろう、僕。



考えこみそうになる僕を尻目に、マヤ先生は言いました。

マヤ「いい? 私の生き様、しっかりと目に焼き付けておくのよ?」

ユウ「は、はい!!」






僕の中の期待が、最大限に膨らみました。

そのときです。







「ヤメロヨー!!」















僕はその瞬間、何が起こったのか分かりませんでした。



スーパーチューハイのCMの、スーパー部長のような裏声で、
マヤ先生が叫んだのです。




明らかな腹話術でした。












先生の生き様って、これですか。



「ああっ!?」



その声に驚くように、こちらを向く男性。そして乗客たち。

ドミノのように、あちらから順番に首が向いてきます。


その首の動きは、マヤ先生のところで止まるはずでした。


でも。










くるっ。



え。










目の前には、こちらを見つめるマヤ先生の顔が。





「何か文句あるのかよ、コラァ!!」




止まる時間。

背筋に差し込まれる、絶対零度のドライアイス。



はたしてユウの運命は!?


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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。12/01
               ~ヤ○ザさんと戦う女医。
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(あらすじ…電車内で大声で携帯で話すヤ○ザさん。
マヤは自分が注意すると言いながら、腹話術で「ヤメロヨー!」と言う。
さぁ、濡れ衣を着せられたユウの運命は?)


お前か、コラぁ!!

彼は恐ろしい形相で、こちらに歩いてきます。

もう涙が出そうです。
僕はどうやって逃げ出そうかと考えました。
相手が一人なら、何とかできるかもしれない…。

そう考えたときです。


どうしたんスか、兄貴!!







もう一人いたみたいです。


兄「こいつがよ、調子くれてんだよ」
弟「マジっすか!?」




マジじゃないっす。


僕は考えました。

やったのは僕じゃない。
何をそんなに恐れているんだ。


「僕じゃないんだよ!!」

そんな風に、
僕らしく堂々と説明すればいいんだ。

僕はそう思うと、口を開きました。



ユウ「ぼ、ぼ、僕じゃありませんよう…











これが僕らしさ。



もう、自分で言いながら泣けてきました。


でもその男性は、聞き入れてくれません。

男性「アン!? おめーなんだよ!!」
ユウ「ど、どうしてですか?」

次に彼が言ったセリフを、いったい誰が予想できるのでしょうか。






男性「おめーだからに、決まってんだろうが!!








スゴい理論です。




この人の言いたいことをまとめると。






おめーだから おめー。







一分のスキもない論理です。

兄貴分は、僕の肩を力任せに押さえながら言いました。


「なあ、次の駅で降りろや



この電車が、回送だったらいいのに。

さぁ、ますます切羽詰るユウの運命は!?


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精神科医ユウの日記 <90%ノンフィクション・10%ユウの妄想>
モーニング女医。12/21
               ~ヤ○ザさんと戦う女医。3
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(あらすじ…電車内で大声で携帯で話すヤ○ザさん。
マヤは自分が注意すると言いながら、腹話術で「ヤメロヨー!」と言う。
さぁ、濡れ衣を着せられたユウの運命は?)

もう全てが終わってしまう気がしました。
僕はすぐにマヤ先生の方を見ます。


…あれ?


そこには、誰もいませんでした。


………。


逃げちゃったんですか、マヤ先生。


僕の中に、たちまち『絶望』の二文字が浮かんできました。


マヤ先生がいない。


僕がピンチになったときは、
いつでも助けてくれたこともあったマヤ先生が。



オラ、ついてこいよ!


その男性二人は、そう言いながら、僕の肩をつかみました。

あぁ。

僕はここで死んでしまうのでしょうか。

そんなとき、どこからともなく一つの声が響きました。




「ヤメロヨ、バーカ!」












乗客全員の時間が止まりました。


聞き覚えのある裏声。

さっきの声と、音階から音質まで、何一つ変わりません。

その2人は、すぐに叫びます。

だ、誰だコラ!!








聞くまでもないと思いますが。



明らかに、どこか他の場所にうつったマヤ先生が、さっきのスーパー部長なみの
裏声で叫んでくれているのです。



声は立て続けに響きます。


「イッタノハ、ソイツジャナイヨーダ!」

「ど、どこにいるんだ、出て来いコラ!!」
「ざっけんなよ!!」


男性二人は、恐ろしいほどに興奮しています。


「誰なんだよ! ナメんじゃねえぞ!」


「ワタシノコトハ ミウラカズヨシ ト
 ヨンデモラオー!」






………………。


再び、乗客全員の時が止まります。









………先生。

それ、スーパー部長の方じゃなくて、
サッカーの方です。


恐らく、下を向いている乗客が、
みんな心の底でそう突っ込んでいた
と思います。

ぅっざっけっんっなっよ!!


男たちは、マジ切れです。

それを挑発するかのように、声は響きました。

「アレ…?」


乗客全員は、静かに耳を澄まします。

「コエガ…」



……………。

まさか。

乗客全員がそう思ったときです。






「オクレテ……キコエル……」







それ、全然分かりませんから。



「ちっくしょお!」

男たちが悔しがるのを尻目に、先生の声はどんどん調子に乗っていきます。

「エ、ツギハ~ ニッポリ~ ニッポリ~」



先生、挑発しすぎです。


しかし次の瞬間にヤ○ザさんが悔し紛れにつぶやいたセリフを、
僕は聞き逃しませんでした。


「西日暮里じゃねーかよ!!」






この人、律儀に突っ込んでます。

そうこうしているうちに、電車は西日暮里に到着しました。


乗客全員が、逃げるように出て行きます。

男たちは声の主を探そうと、必死に周りの人間を止めようとしていました。

「ちょっ…。待てコラ!」

そのスキに、僕は逃げました。






その数分後、マヤ先生に電話すると、いつもの声が響きました。

マヤ「良かったわねー! 無事でー!」

ユウ「先生も逃げたんですか!?」

マヤ「もちろん! ユウ先生が出たのを確認した上でね!」

ユウ「良かったぁ…。先生、本当にありがとうございました!」

マヤ「うんうん。お礼は明日の昼、オゴってくれるだけでいいわよ?」

ユウ「はい、もちろ…」



このときに、

何だかちょっとした違和感を覚えた気がしましたが、
考えてもしょうがないことのように思えたので、すぐに言葉を続けました。


ユウ「もちろん、オゴらせてもらいます!!




なんだか、今日も平和みたいです。


ハマナットウさん、ありがとうございました。


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